クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

擬似戦争としてのスポーツ

執筆者:徳岡孝夫 2004年9月号
タグ: 中国 日本

 中国で行われたサッカーのアジア・カップでの日本チームへの激しいブーイング。私はべつに驚かなかった。なぜなら、あらゆるスポーツは、多少なりとも観客に正気を失わせるからである。 日本にも例がある。皆様ご存知の甲子園。タイガースが四連敗した後の試合にも、五万三千人がスタンドを満員にし、連勝中と同じようにカットバセ!とやっている。関西人である私には好もしい風景だが、ときどき「このおっさん、おばはんらは正気か?」と問いたくなる。サッカーはたった一点で勝負の決まる場合が多く、なおさらである。 しかし(北京の決勝戦でやったように)日本国歌の吹奏にブーイングし、手製の日の丸を燃やすのは、やめてもらいたかった。粗末な指導者に導かれる粗末な十三億人が何を叫ぼうと勝手だが、せめて記憶力は持ってほしい。それとも彼らの歴史教科書には、昭和三十三年の「長崎国旗事件」は載っていないのか?

カテゴリ: スポーツ
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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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