「スイス資金」を取り込むシンガポールの急成長

執筆者:富山創一朗 2011年1月5日
富裕層の誘致を進めるシンガポール(c)AFP=時事
富裕層の誘致を進めるシンガポール(c)AFP=時事

 アジアの金融ハブとして急速に発展するシンガポール。近年、日本の資産家の間で同国に居住地を移す動きが広がっていたが、民主党政権による税制改革の方向性が「資産課税」に向かうことが明らかになるにつれ、この傾向は強まっている。  シンガポールでは中央銀行が率先してアジアの資産家を集める戦略を採り、世界の金融センターとしての地歩を固めようとしている。そして、このアジアの小国が急成長している裏には、実は金融王国スイスの影がちらついているのだ。

住民税ゼロ、相続税ゼロで富裕層を集める

 シンガポールの中央銀行MAS(Monetary Authority of Singapore)が2010年9月、ある発表をした。「金融投資スキーム(FIS)」と呼ぶプログラムの内容を2011年1月から見直す、というものだった。金融投資スキームと言っても投資銀行向けのプログラムではない。一定の資産をシンガポールに移した場合、同国の永住権が取得できるという富裕層招致のためのプログラムだ。見直しは、その永住権取得の条件を厳しくする、という内容だった。
 具体的には、個人が全世界に持つ純資産が2000万シンガポールドル(約12億円)以上あることを定めた「純資産基準」と、シンガポール国内の銀行に専用口座を開設し500万シンガポールドル(約3億円)以上を預け入れるとする「預入額基準」のうち、後者を1000万シンガポールドルに引き上げるというもの。これによって2010年末にかけて「駆け込み申請」が起きたという。
 シンガポールはアジア諸国の中でも税率が低い。所得税の最高税率は20%で住民税はない。日本の所得税最高税率40%+住民税10%に比べれば半分以下だ。さらに相続税は日本では課税標準3億円以上だと50%(控除額4700万円)に達するが、シンガポールは2008年に相続税を廃止している。富裕層が資産保全を考えるにはうってつけの場所なのだ。
「あの暑い国に永住するのはとても」という人もいるが、経済発展を遂げ、高層ビルが立ち並ぶシンガポールは全館空調が当たり前、郊外にはプールの付いた高級住宅地が広がる。医療や教育制度も充実し、アジアの中では政治的にも安定している。チャンギ空港は世界有数の大空港として各国と直行便が結ばれている。深夜にシンガポールを発てば朝には東京に着く。永住といってもずっと住んでいるわけではなく、東京にも頻繁に「出張」する。要は日本で税制上の「非居住者扱い」になればいいのだ。

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