玉ネギ騒動で露呈した印パ経済協力の遠い道のり

執筆者:山田剛 2011年1月8日
カテゴリ: 国際 経済・ビジネス

 

 カレーをはじめインド家庭料理には欠かせない玉ネギの価格高騰は庶民の不満を煽り、政治的に極めて危険な要因となることは前に書いたが、インド国内では12月末、この玉ネギ価格が前年比80%も値上がりする異常事態となった。あわてた政府はパキスタンをはじめ近隣諸国やカナダなどからの緊急輸入に踏み切ったのである。
 今回の玉ネギ輸入は、07年に印パ両国が開設に合意した陸路での貿易ルートを実際に試す好機と期待され、インド側も特例措置としてゼロ関税での輸入を認めた。しかし、この緊急輸入は印パ貿易が抱えるさまざまな問題点を改めて露呈させる結果となってしまった。貿易ルートがカラチ―ムンバイ間の海路と、北西部パンジャブ州のアタリ・ワガ国境に限られていたことに加え、両国税関の係官も不慣れだったためか、わずか数千トンの輸入でも検査待ちなどによる滞貨が発生。出荷からインド国内に行き渡るまで1週間もかかったケースがあった。
それでもパンジャブ州で小売価格で1キロ65ルピー(約120円)前後に高騰していた玉ネギは緊急輸入の効果で40%前後値下がりした。しかしインド政府が安堵したのもつかの間、今度は年明け早々パキスタン政府が陸路経由でのインド向け玉ネギ輸出禁止を決定した。大量輸出のせいで今度はパキスタン国内の一部地域で玉ネギ価格が上昇したからだ。
緊張状態にあるインド・パキスタン両国だが、貿易許可品目の段階的拡大などで二国間貿易額は2006年以降急増。07年度には22.4億ドルに達した。インド政府はこれまでも、玉ネギをはじめジャガイモや砂糖などをパキスタンからショートカバー輸入している。また、印パ両国の需給ギャップを埋めるため、過去には実験的にパキスタンからのセメント輸入や、パキスタン向け紅茶輸出などを行ったこともある。この他の野菜や果実などの農産物や繊維製品についても互いに補完的な輸出ができると見られている。
だが、08年のムンバイ連続テロの影響や、一向に安定しないパキスタンの政情などもあって、印パ貿易額はその後年間18億ドル前後で低迷したままだ。国の規模が近いブラジル―アルゼンチンの貿易額と比べても10分の1程度しかない。インドからは主にパキスタン側の規制によって機械類の輸出がままならず、パキスタンの産業界からは「インド製機器の代わりに割高な欧米製を買わざるを得ない」との不満がくすぶる。また中東・ドバイ経由での密輸も幅を利かせている。もちろん、今回のような円滑さを欠いた輸送・通関体制では農産物貿易もなかなか増加しないだろう。
同じく微妙な隣人同士だが、インド・中国間の二国間貿易はここ数年で劇的に伸び、今年度600億ドル突破がほぼ確実。2015年までには1000億ドルの大台乗せが有力視されている。  
それにしてもなぜ印パ両国は貿易・投資を重視した実利外交を展開できないのか?玉ネギ輸入をめぐるドタバタは新たな問題提起を行ったと言えるだろう。         (山田 剛)
 
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執筆者プロフィール
山田剛 日本経済研究センター主任研究員。1963年生れ。日本経済新聞社入社後、国際部、商品部などを経て、97年にバーレーン支局長兼テヘラン支局長、2004年にニューデリー支局長。08年から現職。中東・イスラム世界やインド・南アジアの経済・政治を専門とする。著書に『知識ゼロからのインド経済入門』(幻冬舎)などがある。
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