インテリジェンス・ナウ

「殲20」情報で胡主席と米国を翻弄した中国軍部

執筆者:春名幹男 2011年1月17日
エリア: 北米 アジア
中国国防省で儀仗隊から栄誉礼を受けるゲーツ米国防長官。左は中国の梁光烈国防相 (C)時事
中国国防省で儀仗隊から栄誉礼を受けるゲーツ米国防長官。左は中国の梁光烈国防相 (C)時事

 新年早々、米中関係が動いた。ゲーツ米国防長官が1月9日から訪中、胡錦濤国家主席らと会談し、米中国防対話を再開したのである。  胡主席との会談後、記者会見したゲーツ長官に対して、最初に出た質問は、中国が開発中の次世代ステルス戦闘機「殲20(J-20)」についてだった。殲20は会談の数時間前に初の飛行テスト(15分間)を行なっていた。 「飛行テストは長官の訪中にタイミングを合わせたと思うか」と聞かれ、長官は「私はそのことを直接胡主席に尋ねた」と答えた。  胡主席はこれに対し、飛行テストは以前から計画されていたものであり、長官の訪中とは絶対に関係がない、と答えたのだという。  しかし記者会見前に、匿名の米政府高官がウォールストリート・ジャーナル紙などに状況を説明していた。「(胡主席ら)文民の指導部は殲20飛行テストのことを知らされていなかったのは明らかだ」というのだ。  それでは、胡主席はどのようにして、飛行テストが以前から計画されていたことを知ったのか、という質問に対して、米政府高官は「外交儀礼」を理由に答えなかった。どうやら、会談に同席した中国人民解放軍の幹部が主席に駆け寄って、耳打ちしたらしい。  ということは、中国軍当局は意図的に、事前に国家主席に知らせず、飛行テストを行なったということになる。中国は軍部と文民の指導部の間に深い溝があるということだ。 「では長官は、中国の軍部は時には文民指導部の意向にかかわらず行動する、とみているのか」と米国人記者が尋ねた。  するとゲーツ長官は、そうした疑問を持っている、と認めた。「私は長い間、そのことについて懸念してきた。それが米中両国の文民と軍人を入れた対話を重視してきた理由の1つなのだ」

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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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