「人生90年時代の定年延長」論の問題

原英史
執筆者:原英史 2011年1月22日
カテゴリ: 政治
エリア: 日本

 

与謝野経済財政担当大臣が、21日の新成長戦略会議で「年金の支給開始年齢の引き上げ」に言及して波紋を呼んだ。「『人生90年』を前提として定年延長を考え、同時に・・」という文脈。反発が高まりそうだったので、その晩のうちにご本人から、「中長期のビジョン」であって今すぐの話ではないとの釈明がなされたようだ。
 
「年金受給の制限」を安易に口にしたことも然る事ながら、このタイミングで「定年延長」を持ち出したこともどうだったか。
 
同じ日、菅総理は、卒業予定の学生の就職内定状況が極めて厳しいことを受け、わざわざ「総理メッセージ」を公表し、企業に向けて、「意欲と能力のある若者が、就職できないということは、本人だけではなく、国家・社会にとっても大きな損失です。・・・未内定の学生にチャンスを与えてください」と訴えかけたところだった。
 
これと「定年延長」論は、全く逆向きのメッセージだ。
「定年延長」になれば、企業は、従来以上に高齢社員に人件費を割き、若者の雇用を犠牲にせざるを得ない。
今回の発言報道をみて、「定年延長が近く本格的に検討される可能性がある」との判断から、新卒採用により慎重になる企業がでてきても不思議はなかろう。
 
与謝野大臣は、「社会保障改革に関する集中検討会議」(仮称)を設け、関係閣僚、与党幹部のほか、経済界、労働界、言論界、学識経験者なども集めて議論する方針と聞く。
こうした有識者会議は、往々にして高齢者ばかりになりがちなのだが、今回の発言一つとっても分かるように、この領域の議論は常に、世代間利益調整の問題を伴う。
「集中検討会議」には、「若者」の利益代表が不可欠だと思う。
 
ちなみに、アメリカでは「定年制」は禁止されている。「年齢による差別は許されない」との論理で、その代わり、日本のように、解雇が厳格に制約されず、仕事能力に問題が生ずれば解雇が可能だ。(参考:八代尚弘「労働市場改革の経済学」)
日本の場合、事実上「定年まで雇用保障」を一律に与える一方で、本当は仕事能力のある人も一律に切り捨てているわけだ。
 
「人生90年時代の中長期ビジョン」を語るのであれば、定年を10年延ばすといった程度の話ではなく、定年制の廃止や労働市場・法制のあり方を論ずるべきではなかったか。
 
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執筆者プロフィール
原英史
原英史 1966年東京都生れ。東京大学法学部卒、米シカゴ大学院修了。89年通商産業省(現・経済産業省)入省。大臣官房企画官、中小企業庁制度審議室長などを経て、2007年から安倍・福田内閣で行政改革・規制改革担当大臣の補佐官を務める。09年7月退職。株式会社政策工房を設立し、政策コンサルティング業を営む。大阪府・市特別顧問、国家戦略特区ワーキンググループ委員(内閣府)、社会保障審議会年金事業管理部会委員(厚生労働省)を務めるほか、NPO法人万年野党理事、「地方議会を変える国民会議」発起人など。著書に『官僚のレトリック』(2010年、新潮社)、『「規制」を変えれば電気も足りる』(2011年、小学館101新書)、『日本人を縛りつける役人の掟/岩盤規制を打ち破れ』(2014年、小学館)、『国家と官僚』(2015年、祥伝社新書)。
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