曲がり角に立つ急進左派政権(3)ボリビア・モラレス政権の苦境

執筆者:遅野井茂雄 2011年1月23日
エリア: 中南米

 先住民・社会勢力を中心に高い支持をうけて「多民族国家」建設に向け改革を推進するボリビアのモラレス政権が思わぬ苦境に立たされている。先住民出身のモラレス大統領は、新憲法に基づき2009年末の大統領選挙で64%の高得票率で再選され、議会でも三分の二の絶対多数を得た盤石の体制で、1年前政権二期目を発足させた。白人系の東部など野党反対派勢力を法的に追及し、敵なしの覇権を確実にした矢先であった。

 躓きの一つは、昨年12月26日に発表したガソリン価格の値上げである。ガソリンに対する補助金を撤廃し、ペルーなど周辺国への石油製品の横流しを防ごうとする改革だったが、1980年代半ば2万%を越すインフレに喘いだ庶民のトラウマを呼び起こした。公共料金の値上げを「裏切り」と怒った反政府抗議行動(ガソリナソ)を誘い、「人民の意向に従って統治する」という社会運動に支えられた政権の原点に則って値上げを撤回するというお粗末な結果であった。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
遅野井茂雄(おそのいしげお) 筑波大学名誉教授。1952年松本市生れ。東京外国語大学卒。筑波大学大学院修士課程修了後、アジア経済研究所入所。ペルー問題研究所客員研究員、在ペルー日本国大使館1等書記官、アジア経済研究所主任調査研究員、南山大学教授を経て、2003年より筑波大学大学院教授、人文社会系長、2018年4月より現職。専門はラテンアメリカ政治・国際関係。主著に『試練のフジモリ大統領―現代ペルー危機をどう捉えるか』(日本放送出版協会、共著)、『現代ペルーとフジモリ政権 (アジアを見る眼)』(アジア経済研究所)、『ラテンアメリカ世界を生きる』(新評論、共著)、『21世紀ラテンアメリカの左派政権:虚像と実像』(アジア経済研究所、編著)、『現代アンデス諸国の政治変動』(明石書店、共著)など。
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