チュニジアからエジプトへ-壊れゆく権威主義体制

平野克己
執筆者:平野克己 2011年1月30日
カテゴリ: 国際 政治
エリア: 中東

 チュニジア「ジャスミン革命」の衝撃は、長期政権が連なるアラブ世界の街角を伝って、街道を揺るがせ始めた。今その発火点は、治世30年に及ぶエジプトのムバラク政権の足元にある。この30年で激しく変化してきたエジプト情勢において、ムバラク政権の制度疲労ぶりは国際社会の懸念を集めていたのだが、限界がみえてきた。

 チュニジアの前ベンアリ政権にしてもムバラク政権にしても、大統領一族が政治と経済を支配して“王朝”化するような体制を「権威主義体制」と呼ぶ。王的な支配は、その絶頂期においては挑戦者をもたないが、ひとたび不満と嫉妬に火がつくと、政権交代要求を超えて“王殺し”の様相になる。

 先進諸国の民主主義政権であっても、権力はつねに「権威」をまとっている。公式の場で大統領や首相をファーストネームで呼びすてにしたりはしない。統治行為における権力は敬意を要求する。ただ、民主主義体制にあっては、統治は法に基づいて行われなければならない。法が権威に優先するのである。これが逆になっているのが権威主義体制で、権威が法に優先している。

 権威の源とはなにか。その昔ヨーロッパにおいて宗教的権威から抜け出した国家は、神から統治を命ぜられた王権神授の絶対王政となった。つまり、統治のための権威をやはり神に求めたのである。しかし、その後絶対王政を倒した市民革命は、統治権の源泉を「国民主権」という新しい概念に求めた。ここにもう神はいない。

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執筆者プロフィール
平野克己
平野克己 1956年生れ。早稲田大学政治経済学部卒、同大学院経済研究科修了。スーダンで地域研究を開始し、外務省専門調査員(在ジンバブエ大使館)、笹川平和財団プログラムオフィサーを経てアジア経済研究所に入所。在ヨハネスブルク海外調査員(ウィットウォータースランド大学客員研究員)、JETRO(日本貿易振興機構)ヨハネスブルクセンター所長、地域研究センター長などを経て、2015年から理事。『経済大陸アフリカ:資源、食糧問題から開発政策まで』 (中公新書)のほか、『アフリカ問題――開発と援助の世界史』(日本評論社)、『南アフリカの衝撃』(日本経済新聞出版社)など著書多数。2011年、同志社大学より博士号(グローバル社会研究)。
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