経済の頭で考えたこと
経済の頭で考えたこと(32)

中国経済の持続的発展を阻む「党」と「軍」

田中直毅
執筆者:田中直毅 2011年2月4日
エリア: 中国・台湾

 第12次5カ年計画が今年から始まったばかりの中国において、最大の不安は経済社会の持続性となった。世界第2位の経済大国となり、高度成長にともなって税収も年率で平均15%の伸びを続ける中国に問題など少ないはず、との見方が日本をはじめとする先進国にあっても不思議ではない。持続性が問われているのは、緊縮財政が始まった欧州各国や、財政赤字の累積に押しつぶされそうになっている日本であることも確かである。だが、中国は開発途上にあって転換期経営を余儀なくされているのだ。

早くも「喪失世代」が誕生

 2009年に入ると、中国では2011年からの5カ年計画策定に当って、雇用の内容と賃金の分析が喫緊の課題となり、以下4点に関する問題点が厳しく噴出した。
(1) 急増する大卒者に職場を用意できない。この点については4兆元(約50兆円)の政府支出の緊急増がまったくといってよいほど寄与しないどころか、かえって状況を悪化させていることも明らかになりつつある。
(2) 沿岸都市部の工場労働者の賃金上昇率が、想定を上回る加速を見せつつある。内陸部の農村の過剰就労状況に変化がみられない段階から、都市の賃金は次第に上昇基調となった。「先富論」(可能な者から先に豊かになり、後から来る者を助ける)という不比例的経済発展論が前提としていた論理は、どこかで破綻をきたした可能性がある。
(3) 経済的機会が他の先進国に比して多い中国には、他から直接投資が相次ぎ雇用機会が増えるはずであった。しかし、他方で中国の内部で生まれるかなりの利益が、中国の内部で再投資に向わず海外に流出することにより、雇用増の見通し、とりわけ高度知識を要する職場の増大が予測外に小さい可能性を無視できなくなった。
(4) こうした大卒者をめぐる雇用市場の悪環境は、他国の経済発展の歴史との比較からすれば、余りにも早熟な「喪失世代」の誕生に結びつき、中国が不安定な社会になりやすい可能性が出ている。

 私は2009年秋の段階で中国共産党の内部で「構造改革派」が生まれつつあると実感した。討論を5カ年計画の策定担当者と繰り返すたびに、ほんの10年ほど前には3農(農業、農村、農民)問題の克服が唱えられてきたが、すでに中国は経済発展の全構造を再問しなければならない段階にきたと判断せざるをえなかったのだ。

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執筆者プロフィール
田中直毅
田中直毅 国際公共政策研究センター理事長。1945年生れ。国民経済研究協会主任研究員を経て、84年より本格的に評論活動を始める。専門は国際政治・経済。2007年4月から現職。政府審議会委員を多数歴任。著書に『最後の十年 日本経済の構想』(日本経済新聞社)、『マネーが止まった』(講談社)などがある。
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