タタ自動車に吹いた神風

執筆者:山田剛 2011年2月13日

 

  インドの民族系自動車メーカーの雄・タタ自動車は先週、2010年10―12月期決算を発表。連結ベースで前年同期比4倍近い242.4億ルピー(約441億円)の純利益を計上した。このうち201.7億ルピー(同367億円)は08年にタタが買収した英高級車ブランドのジャガー・ランドローバー(JLR)が稼ぎ出したものだった。小型車やバス・トラックなどの商用車が中心だったタタのJLR買収には当初、「シナジーはあるのか?」「長期戦略が不透明」などと、さまざまな疑問の声が沸き起こった。折り悪くその直後に世界同時不況。買収のため銀行から30億ドルもの巨額借り入れを行い、英政府にも支援を要請するところまで追い込まれたタタ・グループの総帥ラタン・タタ氏も、「(世界同時不況の影響が)これほど深刻とは思わなかった」と弱音を吐いたほどだ。
 だがJLRは欧州での販売回復や新車の投入、コスト削減などが効果を生んで業績が急回復。これによってタタの09年度通期(連結)決算では前年度の赤字から一転して257億ルピーの黒字を計上した。巨額移籍金を払って迎えた「JLR」という大ベテラン選手がようやく大活躍した、というところだろうか。
 JLRは閉鎖を検討していた英国内3工場の存続を決定。今後5年間で毎年10億ポンドの投資を行う計画も発表した。好業績に安堵したタタは昨年夏、高級車を含めた新型車をJLRと共同開発する方針を発表。同社首脳陣はJLRという高級車と超低価格車「ナノ」の隙間を埋めるラインナップ再構築にも言及している。
 しかし、これはあまりにも結果オーライではないか。かねてタタ・グループの海外M&A(企業買収)の中には、シナジーや戦略性に疑問符が付くものも散見された。国際化が遅れたインド企業にとってのM&Aとは、「本来なら巨額の投資が必要な有名ブランドを手に入れることができる(ラタン・タタ氏)」手段なのだが、収益よりも「先進国の企業を買う」という象徴的なものにこだわっているような気もする。旧宗主国・英国の高級車であるJLRの買収も、かつて英国人用ホテルへの立ち入りを断られ、その悔しさをバネにムンバイのタージ・マハル・ホテルを建設したタタ財閥創始者ジャムセドジー・タタ氏への「先祖供養」と言っては失礼だろうか。
 それにしてもインド企業、なかなかの強運である。金融部門の対外開放や規制緩和が遅れていた「怪我の功名」でサブプライム問題に巻き込まれずに済み、景気が急回復したことでコーポレート・ガバナンスやトップダウンの経営スタイル、伸び悩む労働生産性や老朽化した設備などが問題視されることもほとんどなかった。
 インド企業による海外M&Aは、ピークだった06―07年ごろの勢いをほぼ回復している。今後もキャッシュを溜め込んだインド企業による大型企業買収案件が飛び出してくるかもしれない。
                                (山田 剛)
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執筆者プロフィール
山田剛 日本経済研究センター主任研究員。1963年生れ。日本経済新聞社入社後、国際部、商品部などを経て、97年にバーレーン支局長兼テヘラン支局長、2004年にニューデリー支局長。08年から現職。中東・イスラム世界やインド・南アジアの経済・政治を専門とする。著書に『知識ゼロからのインド経済入門』(幻冬舎)などがある。
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