堕ちゆく世界の迷走
堕ちゆく世界の迷走(6)

「主役なき瞬時の反乱」と世界を覆うインフレ圧力

執筆者:青柳尚志 2011年2月22日
エリア: 中東
独裁権力は倒れたが、その先は誰も予測できない(フェイスブックの落書きを見るデモ参加者)(c)EPA=時事
独裁権力は倒れたが、その先は誰も予測できない(フェイスブックの落書きを見るデモ参加者)(c)EPA=時事

 中東に始まった反政府デモの連鎖、食料価格の高騰が火を付けた世界的なインフレ懸念。ネット上の情報空間と国境を越えたマネーの奔流。国家や政府という枠組みが侵食されようとしているいま、秩序が地球規模の混沌の渦に飲み込まれてゆく。  現実に起こりつつある変化に名前を与える人を思想家と呼ぶならば、グーグルのエリック・シュミット最高経営責任者(CEO)は21世紀の大思想家と呼ばれるべきだろう。彼が2010年11-12月号の米誌『フォーリン・アフェアーズ』に書いた論文「デジタルの破裂(The Digital Disruption)」は、今まさに中東を舞台に起きている若者たちの反乱を見事に予言している。

中心なき「相互接続権力」

 携帯端末を通じて短文をやり取りする「ツイッター(つぶやき)」、登録し合った者同士が情報を交換する「フェイスブック」。仲間同士の媒体手段という意味で「ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)」と呼ばれるインターネットを通じた横のつながりが、絶対的と思われた権力を次々と倒してゆく。
 シュミット氏はそれに「相互接続権力(interconnected estate)」という名前を与えた。権力という訳語が当てられた「estate」は、もともとフランスの思想家エマニュエル=ジョゼフ・シエイエスが『第三身分とは何か』のなかで時のブルジョワ(市民階級)を表現した政治用語だ。第三身分は18世紀のフランス革命の原動力となった。
 カール・マルクスはブルジョワに対するプロレタリアート(労働階級)の果たすべき役割に注目し、19世紀半ばに『共産党宣言』を記した。マルクスの思想は20世紀にロシアで社会主義政権という現実の力を生んだが、世紀末には革命家の空想は朽ち果てた。
 1989年のベルリンの壁の崩壊とそれに続く東欧革命は、民主主義と市場経済の勝利をもって「歴史の終わり」(フランシス・フクヤマ)をもたらすはずだったが、現実は違った。グリード(貪欲)が原動力となった市場の暴走と、ファナティック(狂信的)な宗教の時代が始まった。
 それは21世紀の構造にほかならない。視界不良な時代は様々に形容し得る。そのなかで、インターネットの発達がもたらす社会構造の激変を鋭く突いたのがシュミット論文だ。ツイッターやフェイスブックの画期的なところは、中央の指令がないままに、体制に不満を持つ人たちが鼠算式に膨れ上がる点だ。

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