JALが目指すべきは「格安航空会社」への道

執筆者:吉野源太郎 2011年3月6日
エリア: 日本

 全日本空輸(全日空=ANA)は、なかなか機敏な企業である。
 同社が香港の投資会社と組んで昨年設立した格安航空会社(ローコストキャリア=LCC)の資金調達構想が2月末に明らかになった。国内線とアジア方面の国際線を就航する予定の同社への新たな出資者は産業革新機構。政府系のベンチャーキャピタルである。だが、この構想に違和感を覚えた関係者は少なくない。1年前、日本航空(JAL)が「バースデー割引」という格安チケットを売り出したときのことを思い出したからだ。

「抵抗勢力」の役割を演じたANA

 ANAは、企業再生支援機構の下で再建中のJALが安売りを行なうのは「税金を原資にした不当廉売だ」として、猛烈な抗議の声をあげた。今度はそのANAが国を頼って「格安航空」に進出する。これはどういうことか。
 同時に取りざたされたのが航空業界の再編だ。JALの高コストを生んだ競争不在の土壌は、JAL再生後も変わらない。それどころか、むしろ国内航空は統制市場へ逆流するとの観測さえある。今回の出資はその兆候だというのだ。
 目的は違うが、企業再生支援機構も産業革新機構も政府系の政策金融機関。将来は政策投資銀行も含めた統合構想もうわさされる。航空業界でも今回の出資は「将来の政府主導によるJAL、ANA統合への布石か」と真顔で語る関係者もいる。業界の現状や体質、過去の官僚統制の歴史を考えると、その観測もあながち根拠が無いとは言い切れない。
 欧米で生まれたLCCの基本的なビジネスモデルは、国内の短距離路線が主戦場だ。しかし、この新会社の狙いは主に国際線だという。アジアの国際線が成長市場だからでもあるが、国内事業に積極的でない理由はそれだけではなさそうだ。
 そもそも新会社がデフレに悩む日本国内での価格破壊を主な事業と考えているなら、国は出資をためらったのではないか。しかもそれ以前にANA自身が、既に国内線での競争に関心を失っているようにもみえる。
 その傾向は「バースデー割引」騒動の際のANAの行動にもうかがわれた。誕生日の前後7日間に利用できるこのサービスは航空業界では別に珍しいものではなく、当時ANAも似たような商品を売っていた。その程度の「よくある話」を「税金」に絡めて非難したANAのキャンペーンは大成功を収め、JALの商品は昨秋に廃止に追い込まれた。
 ANAにはおそらく、このキャンペーンが大衆の共感を呼ぶという確信があったのだろう。競争を嫌う日本的な風土。「国内の価格秩序を乱す者」にアウトサイダーのレッテルを貼り、価格競争を過当競争と呼び変えて非難するのはよく見られる光景だ。
「不当廉売」とは、価格競争に敗れた商店主たちが、ユニクロやヤマダ電機を非難するときの常套句である。厳密な定義はないが、公正取引委員会は商店主たちの声を代弁する政治家、つまり抵抗勢力をなだめるために、時折、申し訳程度に「不当廉売の取り締まり」を実施する。このときANAが国内で演じたのは、海外でLCCに乗り出すのとは別の顔。まさしく抵抗勢力の代表の役回りだった。

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執筆者プロフィール
吉野源太郎 ジャーナリスト、日本経済研究センター客員研究員。1943年生れ。東京大学文学部卒。67年日本経済新聞社入社。日経ビジネス副編集長、日経流通新聞編集長、編集局次長などを経て95年より論説委員。2006年3月より現職。デフレ経済の到来や道路公団改革の不充分さなどを的確に予言・指摘してきた。『西武事件』(日本経済新聞社)など著書多数。
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