行き先のない旅
行き先のない旅(88)

非常時の「心のケア」の問題

大野ゆり子
執筆者:大野ゆり子 2011年3月22日
カテゴリ: 社会
エリア: 日本

 東日本大震災のニュースは、ヨーロッパでも毎日、トップニュースとして報道されている。私のもとにも、各国の友人からメールや電話が殺到し、道で会う人々にもお見舞いを言われる。誰もが口にするのが、被災者の方々が決して列を乱さずに配給に並び、悲しみを静かに秘めて助け合う姿への賛辞だ。個人主義の発達したヨーロッパであったら、我先にと割り込んだり、自分の被害だけを声高に嘆き悲しむだろうに、日本人の謙譲、公共心の高さには本当に心を打たれるという。1990年代の内戦のときに私が住んでいたクロアチアでは、日本政府も復興に多大な援助をした。「日本が助けてくれたことは忘れない。今度はこちらができることを」という声が現地で強い。物価上昇など経済に苦しむクロアチアでは、大規模デモが起きているが、震災後、デモ参加者は日本大使館前で足を止めロウソクを灯し、犠牲者に黙祷した。ザグレブフィルハーモニー管弦楽団は急遽、日本のためのチャリティーコンサートを企画している。
 しかしまだ余震、被曝といった現実の恐怖に晒されている日本の方々にとっては、海外の反応どころではないだろう。ツイッター上で、地震後に脱力感、胸苦しさを訴える方や、「地震ごっこ」を始める子供がいるが正常な反応なので心配しないように、と呼びかける心理療法士のコメントなどを見た。厚生労働省は被災地へ心のケアの専門家を派遣するというが、混乱する被災現場を考えると、組織するのは簡単ではないようだ。同省は「被災地での健康を守るために」というページの中で、睡眠や呼吸が大切と短く触れている。しかし、頭では判っていても眠れないのが実際ではないだろうか。こうした災害直後の心理的支援については、アメリカ国立PTSDセンターらがまとめた資料を、兵庫県こころのケアセンターが見事に翻訳したものが手に入る。【リンク
 専門家のための資料だが、付録として、災害後に子供が興奮したり、無気力になったり、行動に変化がでたときに、親がどう理解し、援助するか詳述している。また、おとなのリラクゼーションのための呼吸法、子供にはゲームを取り入れた呼吸法など、具体的なアイデアも盛り込まれていて、簡単にできるリラクゼーション法などのケアは、日本でもっと報道されてもよいのではないだろうか。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子
大野ゆり子 エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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