【ブックハンティング】もっとも信頼できる経済学者による、きわめてまっとうな「問題提起」

執筆者:喜文康隆 2011年3月24日
『フォールト・ラインズ』
ラグラム・ラジャン著 
伏見威蕃・月沢季歌子訳
新潮社刊
『フォールト・ラインズ』 ラグラム・ラジャン著  伏見威蕃・月沢季歌子訳 新潮社刊

『フォールト・ラインズ』は2010年10月に、英フィナンシャル・タイムズ紙とゴールドマン・サックスが選ぶ最優秀ビジネスブック賞を受賞した。また著者のラグラム・ラジャンは、今年の2月に英エコノミスト誌によって、もっとも信頼できる経済学者のNo.1に選ばれた。  ラジャンを一躍、トップエコノミストの地位に押し上げたのは、2007年8月のパリバショック、それに続く2008年9月のリーマンショックをきっかけとした世界的な金融システムの危機を予言したことだ。

注目を浴びた「グリーンスパンへの本源的な批判」

 彼はその2年前の2005年に、ワイオミング州のジャクソンホールで開かれた銀行関係者のシンポジウムで、きわめてまっとうな、しかし、シンポジウムの参加者の総意とはかけ離れた衝撃的な論文「金融の発展は世界をよりリスキーにしたか?」を発表した。
 金融革新の最前線にあるデリバティブ(金融派生商品)のリスクを金融市場は過小評価している。その象徴的なものは、債務不履行(デフォルト)に対する保険である「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」であり、そのリスクは十分な市場の認識を得ないままに放置されている――。
 問題提起は、金融派生商品のリスクの過小評価の結果として利益を稼いできた投資銀行をはじめとする金融機関、さらには巨額のボーナスを謳歌してきた銀行経営者に対する疑問符であるばかりか、金融界のマエストロと呼ばれ、規制緩和を推進してきた世界の金融界のドン、グリーンスパン米連邦準備制度理事会(FRB)議長に対する本源的な批判でもあった。
 シンポジウムは、翌年に引退を控えていたグリーンスパンへの賛辞に溢れていたため、聴衆の反発はラジャンの想像を超えるものだった。当時の心境をこの本のなかで「飢えかけたライオンの集いに迷い込んだ初期キリスト教徒のような心地がした」とたとえている。
 もし、リーマンショックがあと2年あるいは3年以上遅かったなら、ラグラム・ラジャンは現在のような評価を得ることはなかったかもしれない。そして世界の金融界は、リーマンショックをさらに上回る打撃を受け、壊滅していたかもしれない。

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