インド企業文化の未熟さ露呈した「強制CSR」法案

執筆者:山田剛 2011年3月26日

 

 インド企業問題省は先頃、売上高100億ルピー(1ルピー=約1.8円)、純利益5000万ルピー以上の大企業に対して、純利益の2%をCSR(企業の社会的責任=つまり社会貢献)活動に充てることを義務付ける会社法改正案を国会常任委員会に提出した。本来、優良企業の証しとして各社が自主的かつ創造的に行うのが「常識」であるCSRを法律で義務付けるという驚くべき立法措置に対し、当然のことながら産業界からは強い反発が相次いでいる。
 実はこの「強制CSR」は、政府部内では2年ほど前に浮上したアイデアだ。東部オリッサ州で大規模一貫製鉄所建設計画を進め、土地収用に伴う環境規制や立ち退く農民・漁民への補償といった難問をようやくクリアした韓国・ポスコに対し、地元住民を納得させるため政府・環境森林省が最後に提示した条件が、「純利益の2%をCSRに充てること」だったのは記憶に新しい。今回の会社法改正手続に際し、味をしめた政府当局が同じ手法を持ちだそうとしていることは想像に難くない。
 これに対し、大手IT(情報技術)企業ウィプロ・テクノロジーズの創業者であるアジム・プレムジ会長はすかさず「大企業はすでに十分社会貢献を考えている。CSRの定義があいまいなまま法で強制すれば、これを乱用する会社が相次ぐだろう」と強い反対の意を表明した。
 タタと並ぶパルシー(ペルシャ渡来のゾロアスター教徒)財閥の雄、ゴドレジ・グループのアディ・ゴドレジ会長は、会社法改正案の中身が明らかになった昨年夏、「社会貢献は自発的に行うべきで、政府が強制すればうまく行かなくなる」とバッサリ。女性起業家の草分けでバイオテクノロジー最大手バイオコンを率いるキラン・マズムダル・ショウ会長兼社長も「義務付けられたCSR活動はうわべだけのものになる」と批判した。
 実際、インド最大の財閥であるタタ・グループの場合、政府に何ら強制されなくても、傘下96社合計で年間100億ルピー前後の金をCSRに投じている(2008年度)。これは実にグループ総収益の約4%に相当するという。
 政治家が企業や都市サラリーマンよりももっぱら大票田である地方の農民や貧困層の方を向いているのはインドでは当たり前のことだが、こうした法案が用意されてしまうところが、健全な企業資本主義の未熟さを露呈していると言えるだろう。政治家がしばしば「CEOの報酬は高すぎる」といった批判を繰り返すのも、庶民向けアピールという気がしてならない。ついこの間のヒステリックな「マイクロファイナンス叩き」も同工異曲だろう。
 会長・社長への権限集中による徹底したトップダウンや存在感の薄い中間管理職、情報開示の不備、コーポレート・ガバナンス等々、インド企業の抱える課題を示すキーワードは少なくないが、まずは指導・監督する政府の側がもう少し企業を大人扱いしてあげないと……。          (山田 剛)

 

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執筆者プロフィール
山田剛 日本経済研究センター主任研究員。1963年生れ。日本経済新聞社入社後、国際部、商品部などを経て、97年にバーレーン支局長兼テヘラン支局長、2004年にニューデリー支局長。08年から現職。中東・イスラム世界やインド・南アジアの経済・政治を専門とする。著書に『知識ゼロからのインド経済入門』(幻冬舎)などがある。
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