究極のバラマキ選挙ふたたび

執筆者:山田剛 2011年3月26日
カテゴリ: 国際 政治

 7000万人以上の人口を抱え、日本企業など外資が集積する南部の中核都市チェンナイを擁するタミルナドゥ州の州議会選が、4月13日の投票日に向けていよいよ本格化している。
 同州では、以前の当エントリでも紹介した豪腕政治家M・カルナニディ党首率いるドラビダ進歩同盟(DMK)と中央与党・国民会議派などが組んだ政党連合が、州の最大野党・全インド・アンナ・ドラビダ進歩同盟(AIADMK)などの挑戦を受けて立つという構図だ。
 映画関係者が相次ぎ政界入りする南インド特有の政治風土のご多分に洩れず、カルナニディ氏は映画シナリオライター出身。対するAIADMKは小悪魔系美人女優として知られたジャヤラリーサー元州首相が党首を務め、これまで幾度もの仁義なき政争を繰り広げてきた。
 2006年の前回州議選で「すべての貧困家庭にカラーテレビを配布します」との公約を掲げて世間を驚かせたDMKは今回も、①被差別カースト出身の技術系大学生にノートパソコンを無料配布②60歳以上の高齢者にバスの無料パスを支給③すべての貧困家庭にコメ35キロをプレゼント④貧困者が住む簡易住宅を鉄筋コンクリート製に建て替え……といった一段と気前のいいマニフェストを発表して政権維持を目指している。
 御歳86歳のカルナニディ党首(州首相)は24日、自身の選挙区で演説し、バス無料の対象を60歳から58歳に引き下げ、パソコンを配布する学生も出身カーストに関係なく「すべての大学・職業系単科大学の学生とする」と、いきなり大盛りの上積みを表明した。
 これに対し、AIADMKは24日、①貧困層にコメ20キロとミネラルウォーター20リットルを無料配布②DMK同様のパソコン配布に加え、小学生に制服4着と靴1足を支給③貧困家庭30万世帯に広さ約30平方メートルの住宅を提供④貧困家庭に羊4頭を提供⑤女性による自助グループに最高100万ルピーまでの低利ローンを提供⑥妊婦に月1万ルピーを支給⑦貧困女性の結婚資金を補助――などのマニフェストを発表した。さすが女性党首らしく、主婦や女性へのアピールは十分だ。
 財源はどうするのか非常に気になるところだが、実現すれば「子ども手当」や「高速道路無料化」そこのけの大盤振舞いである。こうした「バラマキ」が南インド特有の傾向かというと決してそうでもない。2007年の北部ウッタルプラデシュ州議会選では当時の州与党・社会主義党(SP)が、すべての女子学生に自転車(選挙運動や投票などに使われる党のシンボルマークでもある)をプレゼントします、との公約を掲げたことがある。
 意地の悪い外国メディアは、こうしたバラマキ政治をしばしば上から目線で揶揄するが、そもそもこれだけの人口規模と格差、多様性がある中で実施する選挙。曽野綾子先生の持論ではないが、家に電気が来ていない、字も読めない人々に真っ向から政策を説くのも現実的とは言えないだろう。
 また、インドにおいては選挙という最高の所得再分配メカニズムを馬鹿にしてはいけないと思う。現地紙によると、リーマン・ショック覚めやらぬ2009年に実施した総選挙では、各政党が全国で1000億ルピー(約1800億円)ものカネを使った。表に出ない買収・饗応の類まで含めれば金額はさらに膨れ上がると見られ、景気下支えに少なからぬ貢献を果たしたのは間違いない。実際、選挙期間中には多数の人力車夫や三輪タクシー運転手らが動員され、屋根にスピーカーと政党のポスターを取り付け、喜々として村中を走り回る光景をよく見る。
 もちろん、そうして選出された議員らが担う国づくりについて、有権者が責任を負わねばならないことは言うまでもない。              (山田 剛)
 

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執筆者プロフィール
山田剛 日本経済研究センター主任研究員。1963年生れ。日本経済新聞社入社後、国際部、商品部などを経て、97年にバーレーン支局長兼テヘラン支局長、2004年にニューデリー支局長。08年から現職。中東・イスラム世界やインド・南アジアの経済・政治を専門とする。著書に『知識ゼロからのインド経済入門』(幻冬舎)などがある。
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