難航するタタ・グループの後継者選び

執筆者:山田剛 2011年4月16日
カテゴリ: 経済・ビジネス 国際

 

 インド最大の財閥タタ・グループを20年にわたって率いてきたラタン・タタ会長(73)の後継者選びが難航している。75歳となる来年12月の勇退を表明しているタタ氏の後継会長を選ぶ社内委員会のメンバーでグループ持株会社タタ・サンズ取締役のR・K・クリシュナ・クマール氏は今月6日、「ラタン・タタ氏の代わりは見つからない」と同グループのウェブサイト上であからさまな困惑を示した。
タタ会長本人も「私があと20歳若ければ」と漏らすなど、会長職への未練をにじませており、選定作業は混迷の度を深めている。タタ一族の中から後継を選ぶのであれば、ラタン氏異母弟でグループの小売部門トレントの会長を務めるノエル・タタ氏(53)が最有力なのだが、ラタン氏は「私の弟は確かに後継候補だが、可能性が90%なのか10%なのか私は知らない」とはぐらかして見せた。
業務引継ぎやお披露目、そしていわゆる帝王学のレッスン期間を設ける為にも、そろそろ「発表」のタイミングが近づいてきている。その意味で実はまさに今が絶好の時期である。
グループ各社の業績は軒並み好調で、一時は大きな重荷になりかけたジャガー・ランドローバー(JLR)も業績がV字回復した。何よりもラタン・タタ氏の「花道」となりそうなのが、タタ氏自らが音頭を取った超低価格車「ナノ」の販売急回復だろう。
発火騒ぎなどで昨年11月には月間販売台数が589台と低迷していたナノは、保証期間の延長や低利ローン、月99ルピー(約190円)のメンテナンス・パックの導入などが成功。12月には同5784台、そして今年3月には8707台と過去最高に達した。同社はナノ専用の西部グジャラート州サナンド工場の生産能力を現在の月産1万2000台から同2万台に増強。北部ウッタラカンド州のパントナガル工場での生産開始も視野に入れている。
同社のラマクリシュナン副社長によると、当初は販売されたナノの約80%がいわゆる「買い増し」目的だったのが、現在では約半数をエントリー層、つまり「初めてクルマを買う人」が占めるようになっているという。「バイクに家族5―6人で乗っているような庶民のためのクルマをつくる」というタタ氏の夢が、ようやく結実しつつあるのだ。
鉄鋼、自動車から小売、IT(情報技術)、紅茶、ホテルまで100社近い有力企業を傘下に抱えるタタ・グループの後継者選びは、インドの平均株価や投資環境評価はもちろん、自国の経済発展を誇りに思うインド人のマインドにも影響を与えるに違いない。後継者選びが難航すればするほど、選考のハードルはどんどん高くなっていくような気がするし、そろそろ決断が必要な時期ではないのか。(山田 剛)
 
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執筆者プロフィール
山田剛 日本経済研究センター主任研究員。1963年生れ。日本経済新聞社入社後、国際部、商品部などを経て、97年にバーレーン支局長兼テヘラン支局長、2004年にニューデリー支局長。08年から現職。中東・イスラム世界やインド・南アジアの経済・政治を専門とする。著書に『知識ゼロからのインド経済入門』(幻冬舎)などがある。
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