財政健全化への遠い道のり―燃料・肥料に直接補助金導入へ

執筆者:山田剛 2011年4月28日

 

 インド政府が、長年の懸案だった「財政健全化」に向けて、何度目かの「本格的な」取り組みを開始した。歳出の14%近くを占めて国庫を圧迫している莫大な補助金支出を削減するため、灯油やLPガス、肥料といった政治的な「重要アイテム」について、貧困層向けの直接現金払いを導入することを決めたのだ。
 高度成長軌道を回復したインドでは、税収もまた大きく伸びているが、それ以上に歳出が膨らんでしまって財政赤字は一向に減らない。2010年度の場合、税収が当初予算よりも約3000億ルピー(1ルピー=約1・9円)も増え、3G 携帯電話ライセンスの入札では見通しを7200億ルピーも上回る2兆2000億ルピーものカネが政府の懐に入ったにも関わらず、補助金支出が同4800億ルピーも増えてしまい、大きく財政の足を引っ張った。この結果10年度の財政赤字はGDPの5.1%にも達する約4兆ルピーに上る見通しだ。
2009年度のインドの貧困率、つまり1日1ドル以下で暮らす人口の割合は約32%と5年前に比べ5ポイント以上も減少している(計画委員会発表)とはいえ、いまだに3億人を大きく超える人々が「貧困層」に分類されている。政治家は「大票田」であるこれらの階層をきちんと処遇しないと選挙で勝てないため、歴代政権は主に米や小麦粉といった食料品や灯油、LPガスなどの炊事用燃料、そして8億人に迫る農民にとって生業の糧となる肥料に膨大な補助金を出して価格を低く抑えてきた。2011年度予算に盛り込まれた補助金総額は約1兆4400億ルピー(歳出の11・4%)で、これは4年前のほぼ2倍である。
そこで政府は今年度末までに「貧困層向けの補助金直接支払い」を導入する方針を表明した。ピンポイント支給によって補助金支出の無駄や不公平をなくそうという考えで、IT(情報技術)大手インフォシス・テクノロジーズ創業メンバーの一人であるナンダン・ニレカニ氏をトップとするタスク・フォースを立ち上げた。
だがこれが一筋縄でいくとは思えない。ここでは2009年に政府が導入を決めた「国民総背番号制」(ここでもニレカニ氏が責任者を務めている)と連動させると思われるが、伝統的身分制度であるカーストと同様、個人や個々の家庭が貧困層に分類されるかどうかの明確な線引きはきわめて難しい。
計画委員会はまた、11年度見通しで7.4%にとどまっている税収のGDP比を2016年度までに9.1%に引き上げるよう政府に勧告した(欧州主要国では税収のGDP比は30―40%台に達している)。インドでは年収18万ルピー以下の勤労者や女性・高齢者などに免税措置があるため、個人所得税を払っている人は総人口12億人のうちわずか3750万人(約3%)しかいない。
インド政府はこれまでも、会社で使う電話代や出張のホテル代、会社が支給する食事などを「付加給与」と位置づけて税金をかける「フリンジベネフィット税」を導入するなど、税収増のためにはあらゆる斬新な手段を動員してきたが、今後もサービス分野を中心に新たな課税のネタを探すとともに高い法人税率を維持し、「取れるところから(税金を)取る」という方針でいくのは間違いない。
伸び盛りの自動車・家電産業だが、インド全体で見るとまだまだ「ぜいたく品」であり、購入者は中間層以上の人々がほとんどだ。需要をさらに喚起するために業界が熱望している物品税の引き下げもそう簡単ではないだろう。農民や貧困層など社会的弱者への優しさを維持したままどうやって財政健全化を達成するのか、気になって仕方がない。(山田 剛)
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執筆者プロフィール
山田剛 日本経済研究センター主任研究員。1963年生れ。日本経済新聞社入社後、国際部、商品部などを経て、97年にバーレーン支局長兼テヘラン支局長、2004年にニューデリー支局長。08年から現職。中東・イスラム世界やインド・南アジアの経済・政治を専門とする。著書に『知識ゼロからのインド経済入門』(幻冬舎)などがある。
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