インテリジェンス・ナウ
インテリジェンス・ナウ

ビンラディンを追い詰めた5年間の「キャノンボール作戦」

春名幹男
執筆者:春名幹男 2011年5月13日
カテゴリ: 国際
高い塀に囲まれたビンラディン容疑者の家 (C)時事
高い塀に囲まれたビンラディン容疑者の家 (C)時事

 オバマ米大統領がオサマ・ビンラディン容疑者殺害を発表した翌2日、大統領の命を受けた特使がひそかにパキスタンの首都イスラマバードを訪問した。  この特使はパキスタンに対し、パキスタン情報機関幹部がアルカイダと接触したかどうか突き止めるため、これら幹部のリストを要求した。特に米側は、パキスタン3軍統合情報総局(ISI)のS部の現状に関する情報提供を求めたという。  S部は、冷戦末期のソ連軍アフガニスタン侵攻の際、ビンラディンを含むイスラム教原理主義組織と協力してソ連軍と戦った。  この数カ月間、米国、パキスタン両国の情報機関の間では、同盟国とは思えないほど、激しいやり取りが交わされてきたが、ビンラディン殺害後、その対立が深刻度を増した。  米国側は、パキスタンが事実上ビンラディン容疑者を匿っていた疑いを強め、これに対しパキスタン側は一部の米中央情報局(CIA)工作員の米国への帰国を要求している。

近隣に元ISIのS部所属OBの住居

 ビンラディン一家は実は、米海軍特殊部隊SEALSがこのほど急襲したアボッタバードの隠れ家に2005年に入居する約2年半前、アボッタバード・ハイウエーに面した小村に約2年半住んでいた。アボッタバード周辺は過激派の攻撃目標とされていたこともあって、転居に際しては、通常厳しいチェックを受ける、と言われる。ISIが「意図的に見過ごした」可能性があるのだ。
 近隣には、隠れ家から直線距離約1キロにある陸軍士官学校のほか、2個連隊の兵舎、元軍人の住居などがある。中には、過去にビンラディンと接触した可能性がある元S部所属情報工作員の住居もあるという。陸軍士官学校ではビンラディン殺害1週間前の4月23日卒業式が行なわれ、アシュファク・キヤニ陸軍参謀長が祝辞を述べたばかり。
 キヤニ参謀長は元ISI長官で、アーマド・パシャ現ISI長官の先輩。キヤニ大将、パシャ中将の2軍人に対して、米側から辞任圧力が強まっている、とパキスタン側は受け止めているようだ。
 パシャ長官は5月訪米説がパキスタン紙で報じられたが、4月11日に訪米したばかりで、今回は見送ったようだ。
 4月訪米の際は、CIA本部で行なわれたパシャ氏とパネッタCIA長官の会談で激しい議論が交わされた。
 ISI側は、パキスタン駐在のCIA要員および「契約スパイ」のリストを要求し、どんな工作を行なっているのか、情報提供を求めた。「情報の共有が必要だ」「同盟国が同時に敵対するなんてあり得ない」と迫った。
 ISI側が強気なのは、パキスタン国内でCIAの工作に対する国民の不満が高まった背景が挙げられる。
 第1に、パキスタン北西部、アフガニスタンに国境を接する、「テロリストの巣」連邦直轄部族地域(FATA)に対するCIA無人偵察機のミサイル攻撃が大幅に増えていることだ。オバマ政権は昨年1年間で118回も出撃させ、591―985人もの死者を出した。
 第2に、ラホール駐在の契約スパイ、レイモンド・デービス元被告(36)が今年1月、交差点で2人のパキスタン人に背後から3、4発の銃弾を浴びせて殺害、240万ドルの補償金を支払って釈放されたケースだ。デービス元被告が滞在していた「隠れ家」には1人のCIA工作員と本人を含めて6人の「契約スパイ」が配置されていた。だが本人は「自分は領事館員」と偽っていた。

この記事は役に立ちましたか?
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
この記事をSNSにシェアする
執筆者プロフィール
春名幹男
春名幹男 1946年京都市生れ。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒業。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授を経て、現在、早稲田大学客員教授。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『スパイはなんでも知っている』(新潮社)などがある。
comment:0
icon
  • 記事の閲覧、コメントの投稿には、会員登録が必要になります。
フォーサイトのお申し込み
価値あるバックナンバー
注目記事ランキング
  • 24時間
  • 1週間
  • f
最新コメント
最新トピック
  • 新着
  • 高評価
  • コメント数順