「地震は予知できない」という常識から防災対策を始めよ

執筆者:塩谷喜雄 2011年5月18日
カテゴリ: 政治 社会
エリア: 日本

 菅直人首相の「要請」によって、中部電力・浜岡原子力発電所は運転を停止することになった。この「英断」がはからずも暴いたのは、日本の地震防災法制が持つ特異な非科学性と欺瞞性である。他の原発には言及せず、浜岡にだけ停止要請をしたのは、発生が逼迫している東海地震の想定震源域に立地しているから、と説明されている。しかし、現行の法制度に素直に従えば、ことは逆になるはずだ。東海地震だけは確実に予知できるので、揺れる前に原発は安全に停止できるというのが、日本の防災計画の大前提である。したがって、他の原発はいざ知らず、浜岡だけは前兆もない段階で停める必要は全くないということになる。浜岡原発の停止要請は、政府自身がその大前提、地震予知を全く信じていないことを意味しているのだが、英断の主はそのへんをどれほど自覚しているのだろうか。

「直前予知」を前提にした大震法

 原子力安全神話と並ぶ、科学を装った壮大な虚構「地震予知幻想」もまた、東日本大震災の圧倒的な現実の前で、いまや崩壊の縁に立たされている。世界の学界では噴飯ものの直前予知を地震防災の柱に据えてきた行政と学者の「地震予知ムラ」は、福島第一原発事故の陰に隠れて、ひっそりと延命を図ろうとしているが、そうは問屋が卸すまい。
 大規模地震対策特別措置法(大震法)は、1978年に成立した東海地震に関する法律である。プレート境界の海溝型地震でありながら、想定震源域が内陸部の地下にまで及んでいて、激しい揺れが東海道メガロポリスの人口密集地域を襲うと予想される東海地震について、その対策を定めている。対策はすべて「直前予知」を大前提にしている、世界に例のない法体系である。
 直前予知とは、大規模地震が発生する2、3日前に、震源の場所と、発生時刻と、地震の規模を特定して察知することである。何らかの異常をキャッチして気象庁が、長官の私的諮問機関である判定会(地震防災対策強化地域判定会)を招集、5、6人の学者によって地震が来ると判断されると、長官はそれを内閣総理大臣に伝え、総理が警戒宣言を発して、政府は警戒本部を立ち上げる。
 すべての権限が行政に集中し、原発も石油プラントも新幹線も止め、高速道路も封鎖される。住民は粛々と安全地帯へと避難する。まるで安手のSFドラマみたいな筋書きが、大震法の骨子である。

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執筆者プロフィール
塩谷喜雄 科学ジャーナリスト。1946年生れ。東北大学理学部卒業後、71年日本経済新聞社入社。科学技術部次長などを経て、97年より論説委員。コラム「春秋」「中外時評」などを担当した。2010年9月退社。
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