ストロスカーンの「存在の耐えられない軽さ」

国末憲人
執筆者:国末憲人 2011年5月29日
エリア: ヨーロッパ
ニューヨークの警察署を出るストロスカーン氏(c)AFP=時事
ニューヨークの警察署を出るストロスカーン氏(c)AFP=時事

 何せ、逮捕されたのは国際通貨基金(IMF)のトップである。財政危機への対策で世界を飛び回り、母国フランスの次期大統領の最有力候補とも目されていた人物だ。しかも、容疑は最も破廉恥な「強姦未遂」。状況から見ると、まさに「青天の霹靂」だった。  一方で「やっぱり」と思った人も少なくないだろう。政治家としての評判の反面、女性を巡るトラブルがいつも付きまとっていた。事件になりかけたスキャンダルは数知れない。「いつかは足をすくわれるだろう」との認識は、母国の記者たちの間で半ば共有されていた。

政治手腕は折り紙つきだが

 IMF専務理事のドミニク・ストロスカーン(62)が5月14日、滞在先のニューヨークのホテルで、従業員の女性(32)を強姦しようとしたとして逮捕された。米仏の報道によると、定宿「ソフィテル」のスイートルームに滞在していたストロスカーンは、掃除のために入ってきた客室係の女性の背後から裸で近づき、ベッドに押し倒して関係を迫った。女性は逃げだし、被害を告げられたホテルが警察を呼んだ。「これはまずい」と逃亡を図ったのか、パリに向けて離陸する直前のエールフランス機内で拘束されるという、安物の刑事ドラマのような結末だった。
 本人は容疑を否認したものの、18日には専務理事の辞任に追い込まれ、19日に強姦未遂、監禁などの罪で起訴された。
 その頭文字を取ってDSK(デー・エス・カー)と呼ばれるストロスカーンの、政治家としての輝かしい実績を疑う人はいない。頭の回転が速く、演説ではメモも見ず出席者の名前を次々と紹介してみせる。数字に強く、経済に明るい政策通。財界からの圧倒的な支持も受けてきた。
 パリ郊外の生まれだが、両親の移住に伴ってモロッコのアガディールで幼少時代を過ごした。グランゼコール名門のHEC経営大学院、パリ政治学院の双方を出て、パリやナンシーの大学で経済学を教えた後、財政計画を統括する計画庁で財務責任者や副長官を歴任した。

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執筆者プロフィール
国末憲人
国末憲人 1963年生れ。85年大阪大学卒。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。富山、徳島、大阪、広島勤務を経て2001-04年パリ支局員。外報部次長の後、07-10年パリ支局長を務め、GLOBE副編集長、本紙論説委員のあと、現在はGLOBE編集長。著書に『自爆テロリストの正体』(新潮新書)、『サルコジ―マーケティングで政治を変えた大統領―』(新潮選書)、『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『イラク戦争の深淵』(いずれも草思社)、『ポピュリズム化する世界』(ダイヤモンド社)、共著書に『テロリストの軌跡―モハメド・アタを追う―』(草思社)などがある。
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