中央政治の混乱が促す「地域の自立」

執筆者:中西寛 2011年6月1日
エリア: 日本

 東日本大震災は5月下旬の時点で死者は約1万5000人、行方不明者は約8500人を数え、インフラだけで約25兆円相当の損害をもたらしたと見積もられている。もちろん戦後最大の天災だが、約300万人の戦没者を出し、当時の国民総生産の約半分を失わせたと推計されている太平洋戦争の被害に比べれば、人的、物的損失は相対的には小さい。物的被害の規模からすれば、今回の被災から日本が立ち直ることはそれほど困難ではないかも知れない。

「倒れんとする巨木」に落ちた大震災という雷

 むしろ、東日本大震災からの復興問題にとって最大の障害は、日本社会の政治的、経済的機能不全である。今回の災害が起きた瞬間に日本の政治的、経済的行き詰まり状況はまさに頂点に達しつつあった。ねじれ国会下で予算関連法案をはじめとする重要法案の成立の見通しが立たないだけでなく、前原誠司前外相に外国人献金問題が発生して外相が辞任、その直後に菅直人首相にも類似の疑惑が取り沙汰された。もし震災がなければ、菅政権が3月中旬に立ち往生してしまっていた可能性はかなり高い。
 また、経済的にも20年以上前のバブル崩壊以来の長期不況から完全に脱出できないままに先進国で最高水準の政府債務を抱えるようになった。経済成長のためには拡張的な金融財政政策が好ましいが、そうした政策が政府債務を拡大することのリスクを無視できない段階にも来ている。6月末とされている税と社会保障一体改革の見通しも立っていない。今回の震災がなくとも、日本の財政金融政策の舵取りは、ナイフの刃の上で玉を転がすほどに難しくなっていたのである。
 要するに、東日本大震災は倒れんとする巨木に雷が落ちたようなものであり、震災からの復興を日本の政治的、経済的再建と切り離して考えることは不可能なのである。

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執筆者プロフィール
中西寛 1962年生れ。京都大学大学院法学研究科修士課程修了。米シカゴ大学歴史学部博士課程留学などを経て、2002年から京都大学教授。『国際政治とは何か』(中公新書、読売・吉野作造賞受賞)、「新しい日本外交の基本方針」など著書・論文多数。編著に『歴史の桎梏を越えて 20世紀日中関係への新視点』(千倉書房)、『新・国際政治経済の基礎知識』(有斐閣)など。
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