クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?
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フクシマと人類の知恵

徳岡孝夫
執筆者:徳岡孝夫 2011年6月10日
エリア: ヨーロッパ

 事件が起ったことより、何か起ったらしいが詳しくは分らないというニュースの方が、人の記憶に深く刻み込まれる。私は25年前の「ニュースに先立つニュース」を、今もしっかり憶えている。    外電の発信地は、たしかストックホルムだったと思う。スウェーデンの地名が書いてあり、その町に降った雨に強い放射能があったという話だった。2、3人が集まって、不安げに空を見上げている写真が添えてあり、記事は中くらいの扱いだった。  最初のうち、ソ連政府は真相を隠した。当時の彼らの秘密主義は、今の日本政府や東京電力の比ではなかった。  そのうちにチェルノブイリという地名が紙面に出た。誰も聞いたことのない地名だった。知らない町だから、ウクライナだと聞いても、何だか現実味がなかった。だが1週間後には、全世界の人が「チェルノブイリ」を恐怖と共に知っていた。  今回も同じだろう。私が読んでいるタイの英字紙は、連日「フクシマ」とだけ報じ、もはや「ツナミにやられた日本の東北地方の町」などと説明しない。福島は、人類が共有する知識の語彙に入った。    共通の知識を持った人類は考えた。その中から最初に行動に出たのがドイツのアンゲラ・メルケル首相だったのには、私は驚いた。 

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫
徳岡孝夫 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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