インド政府、20年目の「製造業振興政策」

執筆者:山田剛 2011年6月12日

 

 インド政府は9日の主要閣僚会議で、同国では初となる本格的な製造業振興政策を基本承認した。7月中にも正式に試行される見通しだ。成長の原動力であり増え続ける労働力人口を吸収する受け皿でもある製造業を総合的かつ具体的に支援する政策は、インドが1991年に経済改革へと着手してから実に20年ぶりのことだ。
 基本承認された「国家製造業政策」はまず、現在国内総生産(GDP)の16%程度にとどまっている製造業のシェアを25%に引き上げ、2025年までに新たに1億人の雇用を創出する目標を掲げ、すでに各地に造成している経済特区(SEZ)よりもはるかに大規模な国家製造・投資区(NMIZ)を創設する、としている。
 NMIZ域内では労働法や環境規制の縛りを緩和し、外資の投資意欲を刺激する戦略だ。現行のインド労働法は被雇用者に手厚いことで知られ、年平均で100人以上の従業員を雇用する事業所では、解雇に先立って州政府の承認が必要となるなど、雇用調整の足かせとなっていた。
 折りしも、欧米景気の不透明感や原油・産業資材の高騰などを背景に2010年度のインド向け海外直接投資(FDI)は約194億2700万ドルと前年度を25%も下回り、印政府は危機感を強めていたところだ。
 また、具体的な振興分野として、工作機械や重電機器、鉱山・土木用機器、重輸送用機器などを挙げているほか、とかく連携がうまくいっていない中央・州政府間の政策調整を担当する「製造業振興庁」を新設することも提案されている。
 産業振興に関して長年無策の状態が続いていたインド政府は2000年代半ば以降、新自動車政策(AMP)や半導体政策などを相次いで打ち出したが、これら「新政策」は、数値目標を掲げるだけで政府による具体的な支援内容はいまひとつはっきりしなかった。今回の「国家製造業政策」は、これらに比べればかなり中身が濃いといえるだろう。
 インドの鉱工業生産指数(1993年度=100)も昨年10月以来前年同月比で1桁の成長が続いており、今年4月も同プラス4.4%と低水準にとどまっていた。国連工業開発機関(UNIDO)は最新の報告で、2011年1-3月期にインド製造業の成長率は前年同期比5.1%と、世界平均の6.5%を下回ったと指摘している。
 製造業の景況感は決して悪くはないが、5月の乗用車国内販売台数は前年同月比プラス8.2%の約20万6000台と、2年ぶりの低い伸びとなるなど、ひところの勢いはない。原油高に伴う資材の高騰や、インフレを押さえ込むための高金利は、自動車や家電などの売れ行きに影を落としている。製造業振興政策の導入は結果的に非常にいいタイミングとなるだろう。
中国など他の新興国に比べ、製造業の高付加価値化や生産性向上が遅れているインドだが、それ自体が成長性の高い巨大市場であり、アジアやアフリカ、欧州を見据えた生産拠点として注目されていることに変わりはない。今回の新政策は製造業てこ入れのための有効打となる可能性は十分にありそうだ。 (山田 剛)
 
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執筆者プロフィール
山田剛 日本経済研究センター主任研究員。1963年生れ。日本経済新聞社入社後、国際部、商品部などを経て、97年にバーレーン支局長兼テヘラン支局長、2004年にニューデリー支局長。08年から現職。中東・イスラム世界やインド・南アジアの経済・政治を専門とする。著書に『知識ゼロからのインド経済入門』(幻冬舎)などがある。
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