饗宴外交の舞台裏
饗宴外交の舞台裏(157)

米大統領国賓招待で締めくくった英女王「1カ月の大仕事」

西川恵
執筆者:西川恵 2011年6月17日
カテゴリ: 国際
エリア: ヨーロッパ 北米

 後に振り返れば2011年の初夏は、85歳のエリザベス英女王にとって、元首としての役割を最大限に果たした最後の大舞台、と言われるようになるかも知れない。
 4月末、王位継承順位では第2位のウィリアム王子のロイヤル・ウェディングと大レセプションをとり仕切った。5月中旬には隣国アイルランドを、その独立(1937年)以来初めて英君主として訪問した。5月24-26日にはオバマ米大統領夫妻を国賓として迎えた。1カ月に3つの重要行事。女王には、それらを英国の元首として細心かつ威厳をもってとり行なうことが求められ、気の休まる間もなかっただろう。

混乱なく終えたアイルランド訪問

 ロイヤル・ウェディングは先月のこの連載で紹介した。アイルランドとは歴史問題や北アイルランド紛争を抱え、真の和解を達成できずにいたが、やっと女王が訪問する環境が整った。それでも訪問時には反対デモなどの混乱が心配された。
 女王は首都ダブリンにある独立の戦いで亡くなった人々の記念碑に花束を捧げ、長いこと黙とうした。この模様は現地でテレビ中継され、アイルランドの人々の英国に対するわだかまりを解くのに大きな効果があったといわれた。その夜の歓迎晩餐会で女王はアイルランドのマカリース大統領と共に新しい両国関係を祝って乾杯した。4日間の滞在中、大きな混乱もなく、無事訪問を終えた。
 そして残る大仕事は米大統領の訪問だった。米大統領が国賓として訪英するのはエリザベス女王即位(1952年)以降2度目で、2003年11月のブッシュ大統領以来。ブッシュ大統領の時は両国が主導したイラク戦争が終わり、互いの協力をねぎらう意味付けがあった。
 今回はむしろ英国が米大統領の訪問を強く望んだ。両国の歴史的な「特別な関係」が薄れ、外交的にも昨年の英BP社によるメキシコ湾での原油流出事故や、英政府がアフガン駐留英軍の撤退を今年から開始する方針を示し、ぎくしゃくしている。新興国の台頭と多極化する世界で、最高レベルで両国の「特別な関係」を再確認したいとの思いが英国にはあった。手厚いもてなしが、そこここで窺えたのも当然のことだった。

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執筆者プロフィール
西川恵
西川恵 毎日新聞客員編集委員。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、論説委員を経て、今年3月まで専門編集委員。著書に『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、本誌連載から生れた『ワインと外交』(新潮新書)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。本誌連載に加筆した最新刊『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)が発売中。
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