インド外資政策、まさかの「逆行」も~政府が医薬品の外資上限引き下げ検討

 昨年秋以来、浮かんでは消えていた「医薬品部門に対する外資上限の引き下げ」論議がまたぞろ動き出したようだ。
インド国会では昨年9月、外資の医薬品大手が相次ぎインド地場製薬会社を買収していることに対し一部議員が強い懸念を表明。これを受けて商工省と保健省は、自動承認ルートで外資100%が認められている現行のFDI(海外直接投資)ルールの見直しを検討し始めていた、というものだ。
 ポルトガルやフランス、そして大英帝国に長年支配され収奪されたインド人のDNAには、今も少なからず外資アレルギーが染みついているといわれる。乗用車や家電は金回りがよくなった都市中間層や富裕層が勝手に買えばいいのだが、印国民があまねくお世話になる医薬品ではそう言ってもいられない。国内の主だった製薬会社がこのままどんどん外資に買収され、価格主導権を握られてしまうと、貧困層や農民が命にかかわる大事な薬を買えなくなってしまう、そうなる前に外資に再び規制の網をかけよう、というわけだ。
 これには伏線があった。長年、医薬品の製法特許しか認めていなかったインドはWTO(世界貿易機関)のプレッシャーもあり、2005年に初めて「物質特許」を認めた。これをきっかけに自社が開発した新薬をインド市場で独占的に販売できるようになった外資大手が続々とインドでの事業拡大に乗り出し始めていたのだった。
 外資による大型買収案件としては08年の第一三共による印最大手ランバクシー・ラボラトリーズの買収があまりにも有名だが、このほかにも09年には仏サノフィ・アヴェンティスが準大手のシャンタ・バイオテックを、10年には米アボット・ラボラトリーズが大手の一角であるピラマル・ヘルスケアをそれぞれ買収するなど、外資による怒涛の攻勢が続いていた。
 散発的に続く報道の中でも、7月5日付け有力英字紙タイムズ・オブ・インディアの記事が最もしっかり取材しているようで、省庁間協議に参加している政府関係者のコメントとして、当局が医薬品部門への外資規制について、新規プロジェクト以外について外資は「現行の100%、自動承認ルート」を「49%まで、しかも政府の事前承認を必要とする」というように、ルールを大幅に「後退」させる方向で話が進んでいる、と伝えている。
 ようやくかつての中国を見習って少しずつ外資フレンドリーになり始めたインドなのに、こうした時代に完全逆行する規制強化が本当に実現すれば、それでなくても伸び悩んでいるFDI流入にとって、さらに重大な影響が出るのは間違いない。
ビジネス界は「インドへの投資意欲を冷やしてしまう」と警戒感を強め、プロ外資のスタンスをとる印政府計画委員会のアルワリア副委員長も「(規制案は)まだ、省庁間委員会で検討されているだけ」と火消しに乗り出しているが、当分この問題はくすぶりそうだ。
 インド政府は先ごろ、熟慮・根回しの末にようやくスーパーや量販店などの大手小売業いわゆる「マルチブランド・リテール」分野を条件付きながら外資に部分開放する方針を表明したばかりなのに、これでは相乗効果も期待薄だろう。
 大手民間銀イエス・バンクの予測によると、現在輸出も含めて300億ドル規模となったインドの医薬品産業は、2015年にも500億ドルを突破する見通しだ。インドお得意のジェネリック(後発薬)の輸出で強みを発揮しているのはもちろん、所得の増加、医療保険の普及に加え、中間層・富裕層における糖尿病・心臓疾患など生活習慣病の拡大などで、インド国内市場にも大きなチャンスが出てきた。さらにインドは優秀な理科系の人材を比較的低コストで使えるうえ、薬効成分の効果を迅速にシミュレーションできるIT(情報技術)にも比較優位があり、新薬開発の分野にも期待が高まっているところだ。
 だったら小手先かつ時代遅れの外資規制などを弄せず、堂々と世界相手に勝負しろ、と考えるのは我々だけではあるまい。                             (山田 剛)
 

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