インテリジェンス・ナウ

ハチドリがスパイに 無人偵察機を駆使する米対テロ戦略

執筆者:春名幹男 2011年7月15日
エリア: 北米 アジア

 オバマ米大統領の対テロ戦略が変わった。米国に対する明確な脅威の主体は「アル・カエダ本体と関連組織、アル・カエダ支持者」だと新しい「国家対テロ戦略」に明記したのである。
 ブレナン大統領補佐官(テロ対策担当)の言葉を借りると、具体的には、特殊部隊を増員し、多種多様な無人偵察機(UAV)を駆使して、テロ組織に対して「目標を定めた外科手術的圧力」をかける。特殊部隊と情報機関が秘密工作を展開し、見えない戦争を強化するというのだ。

ビン・ラディン殺害でも成果

 オバマ政権は発足以来、対テロ戦争の主戦場をアフガニスタンと位置付けた。そして、アフガニスタンでは反政府武装勢力タリバンに対するゲリラ戦闘中心の布陣を敷いた。アフガニスタン駐留米軍のマクリスタル前司令官と後任のペトレアス現司令官(米中央情報局=CIA=長官に9月就任予定)はともにゲリラ戦闘の専門家で、その戦略に従って2009年12月、アフガン駐留部隊の3万人増派を決めた。
 しかし、今年初め国家情報会議(NIC)がまとめた国家情報評価(NIE)文書は、ゲリラ戦闘ではあまり成果がないが、特殊部隊の作戦は前進したとの結論を出した。その情報判断は5月、特殊部隊とCIAがUAVも含めたハイテク機器を駆使して敢行したオサマ・ビン・ラディン殺害作戦で証明される形となった。
 オバマ政権がさらに、アフガン駐留部隊を来年夏までに3万3000人撤退することを決めたのは、特殊部隊重視の新戦略のためだ。
 ビン・ラディンを追い詰めた裏には、アフガン・パキスタン国境の「連邦直轄部族地域(FATA)」にアジトを置く国際テロ組織アル・カエダとその支援組織に対するUAV攻撃の成功があった。米紙によると、こうした攻撃で殺害した過激派は06年以降で計1900人。オバマ政権がUAV攻撃を強化した結果、過去1年半でアル・カエダ指導部30人のうち20人を殺害した、という。
 UAVによる攻撃はアフガン、パキスタンにとどまらず、4月にはリビアのカダフィ大佐派の部隊、5月には昨年11月の本欄でも触れた「アラビア半島のアル・カエダ(AQAP)」のアンワル・アル・アウラキ容疑者を狙った攻撃を実行した。

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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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