先送りされるFTAの議会批准問題

足立正彦
執筆者:足立正彦 2011年7月28日
エリア: 北米

 連邦政府の法定債務の上限引き上げ期限である8月2日を目前にして、現在、ホワイトハウスと議会の与野党指導部との間で連日緊迫した協議が続いている。同協議の影響を受け、オバマ政権が積極的に推進しようとしている政策が9月以降に先送りされることが避けられない状況となりつつある。それは、韓国、コロンビア、パナマとの自由貿易協定(FTA)の議会批准問題である。当初、オバマ政権は夏季休会入りする8月6日までに3カ国とのFTAを批准するよう議会に要請していた。だが、議会の与野党指導部は時間的制約を理由に約1カ月間の夏季休会後に批准問題を先送りするようオバマ政権に求め、ロン・カーク米国通商代表部(USTR)代表も夏季休会前の議会によるFTA批准が事実上困難になったことを認めた。
 
 オバマ政権はFTA発効に伴う国際競争の激化により失業した労働者、農業従事者等に対する支援プログラムである貿易調整支援(TAA)の更新を、FTAの議会批准とともに求めている。オバマ政権と民主党にとり来年の大統領選挙、連邦議会議員選挙を控えて民主党の有力支持基盤である労組の支持を引き続き確保する上で、TAA更新は政治的に極めて重要な意味を持つ。他方、ティーパーティー(茶会党)支援議員をはじめとする共和党の保守派議員は、TAA更新により財政がさらに悪化する事態を懸念しており、TAA更新はFTAの議会批准とは切り離して協議すべきとの立場である。オバマ政権、民主党と共和党はTAA更新を巡り正面から衝突している構図である。
 
 FTA関連法案について、議会では上院財政委員会(マックス・ボーカス委員長)と下院歳入委員会(デイブ・キャンプ委員長)がそれぞれ今月7日に各議院への最終法案作成の審議であるマークアップを行って可決している。だが、民主党が多数を占める上院財政委員会ではTAA条項が規定されているのに対し、下院歳入委員会ではTAA条項が除外されており、民主、共和両党のTAA更新を巡る調整が難航している。
 
 ジョージ・W.ブッシュ政権当時、米政府は韓国、コロンビア、パナマとのFTAにそれぞれ調印した。だが、3カ国とのFTA調印前の2006年中間選挙で民主党が大勝して上下両院で過半数の議席を制したため、自由貿易の進展を警戒する労組に配慮し、ナンシー・ペロシ下院議長(当時)やハリー・リード民主党上院院内総務は第110議会(2007年1月-2009年1月)でブッシュ政権のFTA早期批准要請には応じなかった。オバマ政権発足後の第111議会(2009年1月-2011年1月)でも上下両院で民主党が過半数の議席を維持し、前年9月にリーマン・ショックを契機に金融・経済危機が発生したこともあり、FTAの議会批准は棚上げ状態にされたままであった。

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執筆者プロフィール
足立正彦
足立正彦 住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト。1965年生れ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より現職。米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当する。
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