堕ちゆく世界の迷走
堕ちゆく世界の迷走(11)

鉄道事故だけではない 表出する「中国の歪み」

執筆者:青柳尚志 2011年7月29日
エリア: 中国・台湾 北米
事故への対応に強い批判が起きている(c)AFP=時事
事故への対応に強い批判が起きている(c)AFP=時事

 現地時間7月23日午後8時34分、中国浙江省温州市で発生した高速鉄道の大惨事は、真夏の悪夢というべき出来事だった。当局が生存者の存在を確認するより早く事故処理を図り、事故の検証を避けようとするかのごとく先頭車両を重機で破壊し、埋めてしまう。流石に国内でも非難の声が上がるや、埋めた車両を掘りだす。  日本などから導入した技術を、独自技術と称し海外で特許申請した、かの国のあり様が満天下に晒された事件だった。鉄道は中国経済発展の原動力とされる一方、鉄道建設は利権の塊であった。政権は鉄道省とファミリー企業を身代わりのヤギにして、国民からの非難をかわそうとするだろう。  それにしても驚くべきは、凶事の起きたタイミングである。欧州でギリシャ政府の財政破綻のリスクが高まり、ユーロ圏諸国は総がかりで危機を封印した。米国では連邦政府の債務上限の引き上げを巡り、オバマ大統領と議会指導者の協議が続いていた。先進国の政府が必死に市場からの攻勢に耐えていた、その局面で新興国の代表選手・中国で政府の信認を根っこから崩す事件が起きたのだ。

4兆元の景気対策がもたらしたもの

 間が悪い。車体製造の中国北車、中国南車をはじめ、独自技術を誇ったはずの中国企業の株は事故後、急落した。中国株全体の地合いも悪化した。それには、年後半も不動産引き締め政策が継続されるとの見通しに加えて、衝突事故の悲惨さが、市場心理に影を落としたのだ。
 中国経済は微妙な段階を迎えていた。リーマン・ショック後に総額4兆元(約49兆円)の景気対策で、経済は10%成長に復したが、その半面でインフレ圧力が急速に高まり、不動産ブームが過熱した。絶望的なまでの格差拡大と併せて、インフレはストや暴動の原因ともなり、社会不安に火を付けた。
 昨年秋から続けている金融引き締めと不動産対策で、共産党政権は自らの基盤を維持しようと必死なのである。高速鉄道の大惨事の原因となったのは、列車制御システムなど安全対策をなおざりにした鉄道運営とされるが、ハードの面でも手抜き工事が横行し橋が落ちる事故が相次いでいるという。
 国内総生産(GDP)統計上は、鉄筋の本数を減らし、水混じりのセメントを使ったビルを建てても、立派な投資として勘定される。4兆元の景気対策を元手にした資源や原材料の無駄遣いも、成長の原動力と評価されてきたのだ。その結果が、世界的な資源・エネルギーの高騰でもあった。
 引き締め政策が効果を発揮しだし、中国経済は今年に入って9%台半ばに減速しだした。すると今度は、成長が隠していた歪みが至る所に出始めた。中国に投資していた企業が頭を抱えたのは、賃上げを求めるストの嵐である。上海の賃金水準はすでに先進国並みとなっており、労働コストという面での中国の生産立地としての優位性は急速に薄れている。

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