菅総理は「反・経済産業省」なのか、「経済産業省べったり」か

原英史
執筆者:原英史 2011年8月5日
エリア: 日本

 「原子力損害賠償支援機構法案」が3日、国会で成立した。この部屋で再三指摘したように、国民の負担で東京電力を救済する内容にほかならない。

 
経済産業省や東京電力に対する不信感や敵意を隠そうとしない菅総理だが、こういう肝心な局面では、何をしているのか?
少なくとも外から見る限り、総理が「東京電力救済」に異を唱えた形跡はない。これだから、いかに敵意をむき出しにしても、単なるパフォーマンスに過ぎないと見透かされてしまう。
 
同様のことがほかにもある。原子力安全・保安院をめぐる、相反する二つの動きだ。
 
一つ目は、組織再編の動き。政府は、原子力安全・保安院と原子力安全委員会を統合し、「原子力安全庁」を新設する方向で検討を推進。5日に開催された関係閣僚会合では、新設組織を環境省、内閣府のいずれに置くかで意見が割れたらしいが、少なくとも、「経済産業省から原子力安全・保安院を分離」することは確定のようだ。
もともと経済産業省に推進役と監視役の両方があることが問題だった上に、原発シンポジウムへの動員など“やらせ”問題も噴出し、組織の体質そのものが問題視されているのだから、これは当然といってよい。
 
問題は二つ目。ちょうど同じタイミングで、海江田経済産業大臣が「経済産業省の3幹部更迭」を発表し、原子力安全・保安院長も「更迭」対象になった。(なお、これらは、通常の人事に過ぎず、「更迭」と呼ぶには値しないのだが、本稿ではこれは脇に置く。)
後任がどうなるのかと思っていたら、報道によれば、何と、経済産業省本省の商務流通審議官(流通業などの担当)の横滑りが内定したという。
ちなみに、「更迭」された現・院長も前職が商務流通審議官だったから、いわば“指定コース”の順送り人事だ。
 
この人事は、全く意味不明だ。
「原子力安全・保安院を経済産業省から切り離すべき」と政権が考えているなら、そのトップをせっかく交代させるのに、なぜ、わざわざ経済産業省の「省内順送り人事」にするのか?
現時点で保安院が経済産業省の内部組織だからといって、別に、省内の人材を起用しなければならないわけではない。むしろ、組織体質が問題になっているケースでは、役所でも、外部人材を起用して、組織の抜本改革にあたらせることが珍しくなく、例えば、かつて社会保険庁などでも「民間人長官」を起用したことがあった。
今回のケースでは、「組織体質の改革」に加え、「経済産業省からの分離」が課題なのだから、ふつうに考えたら(政治主導で人事をやっている限り)、「省内順送り人事」はあり得ない選択肢だったはずだ。
 
ただ、この人事は、まだ正式に発令はされておらず、来週12日に発令予定だそうだ。ということは、総理にはまだ、人事にストップをかけるチャンスが残されている。
ここでストップをかけるのか、経済産業省の敷いた路線を追認するのか?
これまでの言動をみれば、答えはだいたい予想できてしまうが・・・。
 
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執筆者プロフィール
原英史
原英史 1966年東京都生れ。東京大学法学部卒、米シカゴ大学院修了。89年通商産業省(現・経済産業省)入省。大臣官房企画官、中小企業庁制度審議室長などを経て、2007年から安倍・福田内閣で行政改革・規制改革担当大臣の補佐官を務める。09年7月退職。株式会社政策工房を設立し、政策コンサルティング業を営む。大阪府・市特別顧問、国家戦略特区ワーキンググループ委員(内閣府)、社会保障審議会年金事業管理部会委員(厚生労働省)を務めるほか、NPO法人万年野党理事、「地方議会を変える国民会議」発起人など。著書に『官僚のレトリック』(2010年、新潮社)、『「規制」を変えれば電気も足りる』(2011年、小学館101新書)、『日本人を縛りつける役人の掟/岩盤規制を打ち破れ』(2014年、小学館)、『国家と官僚』(2015年、祥伝社新書)。
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