「ラフル・ガンディー首相」の誕生なるか

執筆者:山田剛 2011年8月7日

 独立インド64年の歴史の中で、ネール・ガンディー一家(初代首相ジャワハルラル・ネール、その娘インディラ・ガンディー、彼女の息子ラジブ・ガンディー)は実に37年間にわたって最高権力者たる首相を務めてきた。さらに言えば、2004年5月から、実質的なインドの指導者は与党国民会議派の総裁である故ラジブの妻ソニア・ガンディー氏(64)なのだ。
 こうした状況はしばしば「ネール・ガンディー王朝」などと呼ばれるが、インドの政治体制は紛うことなき議会制民主主義なので、彼らはすべて選挙で正当に選ばれている(実際、インディラ・ガンディーは強権的政治手法が嫌われて選挙で敗北し、下野したこともある)。
 そのネール・ガンディー家の次のホープが、国民会議派幹事長を務めるソニアの長男ラフル・ガンディー氏(41)だ。端正なマスクと優しげな語り口で有権者の人気は上々。最近では党大会での演説なども無難にこなしている。
 昨年以降、このラフルを次期首相に推す声が党内部で公然と高まっている。ラフル氏と同じ党幹事長(複数いる)を務め、ガンディー家おひざ元の北部ウッタル・プラデシュ州の選挙対策を任されているディグビジャイ・シン氏は今年6月、「ラフルは政治家として十分成熟しており、首相にふさわしい」と発言。これはソニア氏ら党首脳部公認のアナウンスだと受け止められている。
 ソニア氏は先週、海外での病気治療に際し重鎮幹部とともにラフル氏を党務代行に任命。これは権力移譲の地ならしではないかとささやかれた。あまりあてにならないとはいえ、地元ニュースサイトの世論調査でも61%が「首相交代が望ましい」と回答。次期首相候補にラフル氏を挙げた回答も46%に達した。
 イタリア生まれのソニア氏は04年の総選挙に勝って首相就任が確定的となったが、野党・インド人民党(BJP)などの激しい反対でこれを断念、マンモハン・シン氏(78)に白羽の矢を立てた経緯がある。このことからも、ソニア氏にとって人生最大の目標は「ガンディー家の当主として、息子ラフルを首相に据える」ことだと考えていいだろう。
 失言癖など脇の甘さもあり、とかく若造扱いされていたラフル氏への「政権禅譲」はまだまだ先だと思われていたが、ごく最近になって潮目が変わりつつある。
 41歳という年齢は、父の故ラジブ・ガンディー元首相が祖母インディラの暗殺事件によって急きょ首相に就任した年齢(40歳)をすでに超えた。また、インフレ抑制を図る金融引き締め政策が経済界から不評なこと、英連邦競技大会(コモンウェルス・ゲームズ)関連工事や携帯電話ライセンス、印宇宙研究機構(ISRO)などを巡る政治家・官僚の相次ぐ汚職疑惑で、シン首相率いる現政権に厳しい目が注がれていること、そして人気回復を狙って実施した内閣改造も期待外れに終わったことなどで、人心一新の機運が徐々に高まっていることが挙げられる。   

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執筆者プロフィール
山田剛 日本経済研究センター主任研究員。1963年生れ。日本経済新聞社入社後、国際部、商品部などを経て、97年にバーレーン支局長兼テヘラン支局長、2004年にニューデリー支局長。08年から現職。中東・イスラム世界やインド・南アジアの経済・政治を専門とする。著書に『知識ゼロからのインド経済入門』(幻冬舎)などがある。
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