インテリジェンス・ナウ

米国のシリア「体制変革」工作で新段階を迎えた「アラブの春」

執筆者:春名幹男 2011年8月12日
エリア: 中東 北米
7月11日、ダマスカスの米大使館の入り口に巨大なシリア国旗を掲げるアサド大統領の支持者 (C)EPA=時事
7月11日、ダマスカスの米大使館の入り口に巨大なシリア国旗を掲げるアサド大統領の支持者 (C)EPA=時事

「アラブの春」はいよいよ米国とその仇敵イラン・シリアが対峙する新段階に入った。  チュニジアの反政府運動に端を発し、親米のムバラク前エジプト政権が崩壊、バーレーンなどにも拡大したが、リビアやイエメンでは内戦が膠着状態に陥っている。  長期化するこの中東の大震動に対して、オバマ米政権は介入にやや慎重だった。だが、シリアのアサド政権が死者推定2000人を出す「血の弾圧」で対応、情勢が深刻化し、シリア政府系のデモ隊が米大使館を襲う事態に発展すると、米国はにわかに積極策に転じた。  米国は事実上、アサド・シリア政権の「レジーム・チェンジ(体制変革)」を図る構えを示している。  7月11日、シリアの首都ダマスカスの米大使館にアサド大統領支持派の群衆が侵入。これを受けて、クリントン米国務長官は緊急に会見し、アサド政権は「正統性を失った」と宣言、「米国の目標は……民主的転換だ」と表明したのである。  シリアの友好国イランは急きょ、58億ドルに上るアサド政権への巨額の緊急援助を約束したと伝えられる。反米で結束を固める両国に対して、オバマ政権がどのような工作を展開するか。「アラブの春」は米国対イラン・シリアの対決という新たな段階を迎えた。

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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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