台風の目となった「はぐれ狼」宋楚瑜

執筆者:野嶋剛 2011年9月20日
タグ: 中国 台湾 日本
エリア: アジア

 8月末に訪れた台湾は与野党とも「分裂」問題でざわついていた。
 野党・民進党サイドでは、前総統・陳水扁の息子、陳致中が高雄市の選挙区からの立法院(国会)選挙出馬を表明した。現在、刑務所にいる陳水扁に対する同情論は、台北ではあまり感じないが、民進党の勢力が強い高雄、台南などではかなり根強く残っている。陳致中は陳水扁の事案に絡んで逮捕され執行猶予中の身だが、テレビの中継で見ている限り、精気にあふれ、政治家の顔をしていた。
 陳致中とは父親が総統在職中の5年ほど前、食事をしたことがあるが、浮わついた雰囲気を漂わせた信用できない人物という印象が強かった。名刺に「陳水扁事務所最高顧問」というようなことが書いてあったと記憶している。日本の自民党の大物政治家にも名刺に「××長男」と書くドラ息子がいたが、どこの国でも父親の威を借りるしかないダメな家族はいるものだと思った。
 しかし、父の不幸への同情もあって、陳致中はいま、南部の選挙民の間でカリスマ的な人気を誇り、昨年11月の高雄市議選挙ではトップ当選。今回も、同じ選挙区の民進党、国民党両候補を脅かすことが確実視されている。
 陳水扁一家の扱いは、民進党にとってデリケートな課題だ。熱狂的な支持者が数十万人はいて、陳家を完全に離反させることは総統選に不利になるが、「総統の犯罪」を肯定する言動を取るわけにもいかない。モンスター化した陳家に対し、総統候補の蔡英文主席はつかず離れずでいる以外に有効な手がないように見える。

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執筆者プロフィール
野嶋剛(のじまつよし) 1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)、『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)など。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『香港とは何か』(ちくま新書)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com
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