海外在住日本人にできること

大野ゆり子
執筆者:大野ゆり子 2011年9月21日
エリア: ヨーロッパ

「KAWASHIMA! FUKUSHIMA!」――サッカー・ベルギー1部リーグで活躍する川島永嗣選手に対して、相手チームのサポーターが、福島第一原発事故を引き合いに出して揶揄するような野次を飛ばし、川島選手がそれに抗議して試合が中断した事件は、ヨーロッパでも大きく報じられた。川島選手は自分に対しての野次は全く気にならないし、野次はよくあることとしながらも、「大きな被害があって今も日本全体で頑張っている時に、それをだしに使われるのだけは許せなかった」と、その時の心境を説明した。
 ベルギーのメディアも度を超えたサポーターの悪のりには、「嘆かわしい」「人種差別」と非難一色。相手チームは公式ホームページに日本語でお詫びを掲載し、日本への義捐金を募ることにしたが、それだけでは不十分と判断したベルギーサッカー協会は、チームに対して川島選手と駐ベルギー日本大使への面会謝罪、3万スイスフラン(約270万円)の罰金を決定した。

「日本から来た食品は食べない」

 外国では抗議しなければ、それを受け入れることになってしまい、日本では評価される「ここはひとつ大人になって、取り合うのはやめよう」という態度は通用しない。今回の川島選手の抗議は、サッカー界にとどまらず、欧州にもう1度、被災地への正しい理解を求めるきっかけになった。
 被災地の人々の気持ちを逆撫でするような発言を繰り返す政治家が跡を絶たない現在、誰が世界に向かって被災地の気持ちを代弁してくれるのだろう。誰もが日本復興の一翼を担うべき時に、われわれ海外在住日本人にできるのは、この部分なのではないかと思いを強くしている。
 3月11日直後の海外での報道は、未曾有の災害の中で、思いやりながら助け合う被災者への賛嘆のみだった。その流れがはっきりと変わったのは、福島原発事故に対する日本政府と東電の説明が二転三転する事態になってからだ。3月15日、フランスのリヨン市にいた私は、地元地方局の視聴者参加番組を見ていて驚愕した。原発事故の報道にからんで、スタジオにいた視聴者が、「日本を発着した飛行機に乗って来た人と、握手やキスをしていいものだろうか。飛行機の中には放射性物質が付着しているのではないか」と真顔で質問していたのだ。ヨーロッパの日本びいきの友人でさえ、当分、日本から来た食品は食べないといい、欧州内の日本レストランでも、わざわざ「当店の材料はヨーロッパのものです」とメニューに謳うところも増えた。ある東欧の国では、日本人というだけの理由で、入国審査にひっかかり、日本大使館が間に入らなくてはいけない事例も増えたと、外務省関係者から聞いた。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子
大野ゆり子 エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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