グローバル・ビジネスの新地政学
グローバル・ビジネスの新地政学(9)

国内空洞化「受け皿候補No.1」ベトナムの現在

執筆者:森山伸五 2011年9月30日
カテゴリ: 国際 経済・ビジネス
労働者の質は高い(c)AFP=時事
労働者の質は高い(c)AFP=時事

 日本企業のベトナムへの関心が急激に高まっている。  理由は単純だ。東日本大震災以降、日本国内は電力不足と電気料金の上昇、急激な円高、復興費用捻出のための増税と、製造業の立地条件が次々と失われ、多くの製造業にとって日本を脱出する以外に方法がなくなっているからだ。  加えて、これまで日本の製造業を引き付けてきた中国では、人件費の急騰、人民元高、収入格差から来る社会不安などで、輸出型産業の競争力が急低下し、中国の国内市場を狙う企業以外の進出がほとんどなくなっている。  日本の製造業の根幹を担う輸出型生産拠点の受け皿になっているのは、再びASEAN(東南アジア諸国連合)諸国であり、その先頭に立っているのが、ベトナム、タイ、インドネシアなどだ。とりわけベトナムへの評価はきわめて高い。企業が進出先を選択する際の評価ポイントは人件費、労働力の質、インフラ、政権の安定性、通貨の先行きなどだが、ベトナムはいずれの点でもASEANでトップクラスといってよい。

安い人件費と豊富な若年人口

 2010年にジェトロが実施したアジア各国の賃金比較によると、作業員の賃金は企業にとっての年間実負担額ベースで、ベトナムは1834ドル(約14万1200円)にとどまり、中国の5552ドル、タイの5125ドルの3分の1強にすぎなかった。内需の拡大で俄然注目されるインドネシアは3111ドルで、ベトナムの1.7倍。ベトナムは昨年からインフレ調整のため給与が急騰しているものの、通貨「ドン」は対ドルで下落しているためドルベースでの上昇は抑制されており、人件費面での優位性は依然として高い。
 労働力においてもうひとつの重要な要素である人口規模では、ベトナムは8690万人とASEANではインドネシア、フィリピンに次ぐ第3位。ASEAN内で最も日本企業が集積しているタイの6680万を2000万人も上回っている。ベトナムは人口構成も若く、若年雇用ではまだ余裕があるとみていい。しかも識字率が90%を超えており、中国と並んで質が高く、勤勉な労働力といわれる。
 また若年雇用で重要なポイントとなるのは国内の人口分布だ。ベトナムは北部の首都ハノイと南部の経済都市ホーチミンが2大都市となっているが、人口はハノイが650万人、ホーチミンが720万人と両都市とも全人口の10%以下で、決して大都市への集中が進んでいるわけではない。中部のダナン、北部の港湾都市ハイフォン、南部のメコンデルタの中心都市カントーなどがあり、アジアの国家としては国内の人口が比較的分散している。これは進出企業にとっては有利な条件だ。
 インフラは依然として整備が遅れているものの、道路、港湾などはかなり改善されてきている。かつて停電頻発で評判の悪かった電力も日本企業の集中立地する工業団地などへは高圧送電線が直結するなど優先供給されており、電力不足による操業停止などは最近では珍しくなりつつある。

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