「面従腹背」の中で進む北朝鮮「後継」整備

平井久志
執筆者:平井久志 2011年10月6日
カテゴリ: 国際
エリア: 朝鮮半島

 北朝鮮は昨年9月28日、44年ぶりに党代表者会を開催し、金正日(キム・ジョンイル)総書記の3男、金正恩(キム・ジョンウン)氏を党中央軍事委副委員長に選出し、金正恩氏は後継者として公に登場した。先軍政治を反映し、金正日最高司令官はその前日の27日に金正恩氏に「大将」の軍事称号を授与した。
 このとき金正恩氏が得たのは「大将」「中央委員」「党中央軍事委副委員長」の3つのポストで、金正日総書記が1974年2月の党中央委第5期第8回総会で「主体偉業の偉大な継承者」として「後継者」に推戴されたような正式な機関決定はなかった。
 党代表者会から1年が経過し、金正恩氏の地位はどう変化し、北朝鮮の権力継承事業はどの段階にまで達しているのか検証してみたい。

実質ナンバー2の座に

9月9日、建国63周年を記念した閲兵式に参加した金正日父子 (C)AFP=時事
9月9日、建国63周年を記念した閲兵式に参加した金正日父子 (C)AFP=時事

 朝鮮中央通信は9月25日、北朝鮮を訪問したラオスのチュンマリ大統領と金正日総書記、金正恩副委員長の記念写真を配信した。写真ではチュンマリ大統領を中央に金正日総書記と金正恩副委員長が左右に並んでおり、ラオス元首に北朝鮮側の「2人の指導者」が対応したと思わせる。金正恩氏が実質的なナンバー2であることを内外に明らかにしたものであった。  チュンマリ大統領と金正日総書記の首脳会談は同23日に行なわれ、これには金正恩副委員長や李英鎬(リ・ヨンホ)総参謀長、金永日(キム・ヨンイル)党国際部長ら他の幹部たちも同席した。金正恩氏の首脳会談同席が公式に報じられたのは初めてである。  また、ラオス側も金正日総書記と金正恩副委員長の2人に贈り物を準備し、対外的にも金正恩副委員長を金総書記と同等に扱い、「後継者」と認めた形だ。  金正恩氏が昨年9月に党中央軍事委副委員長に就任した直後の政治序列は党政治局常務委員の金正日、金永南(キム・ヨンナム)、崔永林(チェ・ヨンリム)、趙明禄(チョ・ミョンロク)、李英鎬の5人に次ぐ序列6位であった。趙明禄軍総政治局長が死亡し、序列5位になったが、今年2月には李英鎬総参謀長より上位で報道され、同3月になると崔永林首相より上位で報道された。  そして、今年9月9日の建国63周年を記念した労農赤衛隊の閲兵式には、北朝鮮指導部がほぼフルメンバーで出席した。ここで金正恩氏は金正日総書記、金永南最高人民会議常任委員長の次に紹介され、序列3位の地位にあることが確認された。金永南委員長はいわば対外的な元首格であり、実質的には金正恩副委員長がナンバー2の地位にまで昇り詰めていることを内外に示した。  さらに、7月2日の朝鮮中央テレビは80代の高齢幹部である崔泰福(チェ・テボク)最高人民会議議長が金正恩副委員長に頭を下げて挨拶をする様子を放映。その地位が上がっていることを一般住民に明らかにするプロパガンダを行なっている。  ラヂオプレスの集計では、金正日総書記は党代表者会から今年9月27日までの1年間に163件の公開活動を行なったが、金正恩副委員長はこのうち99件に同行した。特に金総書記が8月にロシア、中国訪問から帰国して以降、9月末まですべての公開活動に同行している。これは党代表者会開催から1周年を迎え、北朝鮮内部のキャンペーンの中で後継者の存在を誇示するためとみられる。

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執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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