ジョブズの死と「アメリカの秋」

 欧州ではユーロ危機がますます深刻化、ユーロ圏17カ国の南北対立の様相を強め、ギリシャはデフォルト(債務不履行)不可避との見方が続いている。米国の失業率は依然9%を超えたまま。9月半ばニューヨーク・ウォール街に始まった反格差デモは全米に、さらに世界に、広がり始めた。欧州が南北対立なら、アメリカでは民主・共和2大政党対立による政治麻痺で、オバマ政権は身動きがとれない。
 そんな中で、IT企業アップルを一代で築きあげたカリスマ経営者スティーブ・ジョブズが、10月5日に亡くなった。56歳。ガレージで起業したアップルは一時、時価総額で世界最高となった。世界がジョブズの死を惜しんだのは、今日の世界が失った「夢」をジョブズの生き方に見たからか。ジョブズという稀代の起業家を生み出したのは、ウォール街で始まった反格差デモに通じる1960-70年代の反体制文化(カウンターカルチャー)だった。その死は、現代アメリカについての思索を促さずにはおかない。

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執筆者プロフィール
会田弘継(あいだひろつぐ) 関西大学客員教授、ジャーナリスト。1951年生まれ。東京外語大英米語科卒。共同通信ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを務め、現在は共同通信客員論税委員、関西大学客員教授。近著に『世界の知性が語る「特別な日本』』 (新潮新書)『破綻するアメリカ』(岩波現代全書)、『トランプ現象とアメリカ保守思想』(左右社)、『増補改訂版 追跡・アメリカの思想家たち』(中公文庫)など。訳書にフランシス・フクヤマ著『政治の衰退』(講談社)など。
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