メコン川での中国船襲撃事件に急展開

樋泉克夫

 10月29日、中国の温家宝首相はタイのインラック首相に電話し、洪水対策での尽力を慰労すると同時に、メコン川で発生した中国人船員殺害事件に関して、タイ側の厳正な捜査と犯人の厳重処罰を求め、メコン川の安全航行を確保するための共同機構を中国・タイ・ラオス・ミャンマーの4カ国で立ち上げるべく提案したとのことだ。

 インラック首相にとって焦眉の急は洪水対策であり、温首相にどのように応えたのかは不明だ。だがメコン川の安全航行問題は、南進する中国だけでなく東南アジア諸国の今後の対中スタンスに大きな影響を与えかねない。

 10月5日午前、メコン川を航行中の2隻の貨物船が襲撃され行方不明になったが、11日以降に13人の乗組員全員の惨殺死体が確認された。現場はミャンマー・タイ・ラオスの国境が重なる「ゴールデン・トライアングル」と呼ばれる地域のタイ領内でもあり、中国政府は北京駐在の3カ国の大使館首脳を外務省に呼んで厳重抗議をすると同時に、タイ政府に厳正なる捜査を求めた。

 この間、遺族関係者は現場に近いタイのチェンセンに出向き慰霊祭を行ない、事件の早期解決を求めた。

 当初、一帯に横行する海賊(水賊?)の要求した「用心棒代」を拒否した、あるいは中国船舶が運搬していた麻薬を狙って現場近くのミャンマー側のワ族暴力組織が襲撃したなどの情報が流れた。バンコクの有力英字紙『バンコク・ポスト』(10月10日付)は、両船舶から約2000万元分のヘロインが発見されたと報じてもいる。

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執筆者プロフィール
樋泉克夫
樋泉克夫 愛知大学教授。1947年生れ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本大使館勤務(83―85年、88―92年)。98年から愛知県立大学教授を務め、2011年より現職。『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。
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