生徒の自殺急増で問われるインド式教育システム

執筆者:山田剛 2011年11月6日
カテゴリ: 文化・歴史 国際

 競争率60倍を超える入試を勝ち抜いてIIT(インド工科大学)に入学、卒業後は米大手IT企業に高給でリクルートされる――。こうしたサクセスストーリーを相次ぎ生み出してきたインド式教育システムが、その意義を問われ始めている。印国家犯罪記録庁(NCRB)がこのほど公表したデータによると、2010年のインドにおける中学生・高校生相当の生徒の自殺が前年比9.6%増の7379人に達した。これは06年に比べて26.0%増という異常な数字であり、実に毎日20人強もの生徒が自ら命を絶っていることになる。
 自殺の理由はほとんどが、学校での定期試験における失敗や成績不振、有名大学受験を控えたプレッシャーなどだという。その背景には、急速な経済成長によって現実のものとなった「有名大学→より良い就職先→社会的成功」をとことん追求する風潮と、親や親せき、コミュニティーなどの過剰な期待がある。
 こうした重圧をまともに受けた10代の子供の精神状態はいかばかりか。自殺にまでは至らなくても、試験のプレッシャーによる登校拒否や家出、自律神経失調症などの精神疾患なども増加傾向にあるという。勉強ができる中間層以上の子供にとってはつくづく受難の時代だ。
 実際にインドの教育システムは、一通りの「受験」を経験してきたはずの我々にも想像できない過酷な競争によって支えられている。先述のIITや国立医大、文科系大学の最高峰であるIIM(インド経営大学)などの入試には、町一番の秀才や田舎の村の優等生が数十万人単位で集まるが、実際に入学できるのは数十人に一人。有名大学に入ってもさらに学生同士の激しい競争が待っている。「浪人」「滑り止め」「記念受験」などといった、救いとなる概念はここにはほとんど存在しない。そして、第一希望の学校に入れなかった生徒のその後についても、ほとんど情報が伝わってこない。
 日本企業で働くインド人IIT卒業生は、優秀な人材を輩出するインドの高等教育について、「教授陣やカリキュラムの質ではなく、学生同士の競争こそが強さの源泉」と言い切る。人口の多さに物を言わせ、試験に試験を重ねて一握りの人間をふるいにかけることがその本質だ、というわけだ。
 新聞・雑誌にはここ数年でいわゆる「補習校」「進学塾」の生徒募集広告が急増。全国共通試験で高得点を取った生徒が写真入りで掲載されている。企業や製品のランクづけが大好きなインドのメディアはしょっちゅう、「学部別大学の実力ランキング」「今年は〇〇大学△△校が総合1位」などの特集を組み、誇らしげな教授のコメントや欧米の有名企業でバリバリ働く卒業生インタビューなどを嬉々として掲載する。

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執筆者プロフィール
山田剛 日本経済研究センター主任研究員。1963年生れ。日本経済新聞社入社後、国際部、商品部などを経て、97年にバーレーン支局長兼テヘラン支局長、2004年にニューデリー支局長。08年から現職。中東・イスラム世界やインド・南アジアの経済・政治を専門とする。著書に『知識ゼロからのインド経済入門』(幻冬舎)などがある。
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