カダフィ死亡後の米朝ロードマップは可能か

平井久志
執筆者:平井久志 2011年11月9日
カテゴリ: 国際
エリア: 朝鮮半島

 リビアのカダフィ大佐が10月20日、反カダフィ派によって連行される過程で銃撃され、血まみれで殺されるという悲惨な最期を遂げた。北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記はこの映像をどのような気持ちで見つめていたのだろうか。
 おそらく、金正日総書記はカダフィ大佐に自分の将来の姿を見るのではなく「カダフィ、欧米を信じるからこうなるのだ。俺はお前のようにはならない」と考えただろう。リビアのカダフィ派が敗北したのは、北大西洋条約機構(NATO)軍の空爆を受けても、NATOを攻撃できる手段を持たなかったからだ、と。
 その意味で、リビア情勢の結末は、長い目では世界の独裁体制の強力な一角が崩れた意味を持つにしても、北朝鮮が自ら核、ミサイル、生物化学兵器という大量殺傷兵器を放棄する可能性をさらに低めたともいえる。北朝鮮が国内の統制をさらに強化するのは間違いなく、中東の民主化の波は、当面は、東アジアでは圧政強化の口実となるかもしれない。

2001年との類似性

 金総書記は10月13日付でロシアのイタル・タス通信との書面インタビューに答え、朝鮮中央通信がこれを同19日に報じた。
 北朝鮮では金総書記の言葉は法律以上の重さを持つとされるだけに、24日、25日に行なわれた第2回米朝高官協議の直前に発表されたこの書面回答が注目された。
 金総書記はこの中で、対米関係について「今からでも敵視政策を放棄するなら、関係改善の用意がある」とし、対日関係では「勇断を下し、過去を清算してわれわれに対する敵視政策をやめるならば、関係も正常化できるだろう」と答え、日米との関係改善に前向きの姿勢を示した。8月のロシア訪問への感謝表明という性格の書面回答の中で、日米との関係改善に言及したのである。
 この金総書記の発言は、北朝鮮の今後の対日、対米アプローチの活性化を予告するものとみられる。北朝鮮の外交チームがある程度、活発な活動をすることのできる枠組みを保証した発言とも言える。
 金総書記は2001年7月のロシア訪問の前にもタス通信との書面インタビューを行ない、この時にも日米との関係改善に言及した。金総書記は「日本が大勢の流れを正しく見極めて過去の清算問題に対して誠実な立場と態度で臨み、わが国に対する敵視施策と敵対行為を中止するなら朝日両国の関係を改善することができるであろう」とした。北朝鮮はこの後に中国を舞台に日本側と秘密接触を続け、それが小泉首相訪朝へと発展して行った。
 今回のインタビューで金総書記は、核問題について「われわれは、米国の露骨な核脅威と増大する敵視政策から自分の自主権を守るために核抑止力を保有することになった」と核保有の正当性を主張した。
 6カ国協議については「前提条件なしに一日も早く再開」することを求めた。さらに「9.19共同声明を同時行動の原則に基づいて全面的かつバランスを取って履行する」とした。いずれも、北朝鮮がこれまで表明してきたことの繰り返しではあるが、金正日総書記自身が2005年9月の6カ国協議での「9.19共同声明」の履行に言及したことに意味はある。

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執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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