F1マシンがインドを走った

執筆者:山田剛 2011年11月16日

 英連邦競技大会(コモンウェルス・ゲームズ=CWG、2010年)やクリケットW杯(11年)などのスポーツイベントを相次ぎ成功させてきたインドが今また、自動車レースの最高峰である「F1グランプリ」を誘致し、国際自動車連盟(FIA)の完璧な仕切りもあって無事「成功」にこぎつけた。
 10月28-30日にかけて開催した同大会は、首都ニューデリー郊外グレーター・ノイダに総工費4億ドルをかけて建設したブッド国際サーキットを舞台に行われ、30日の決勝では10万人収容のスタンドの95%が埋まったという。
 インドでは初めての開催となったF1グランプリには、インド人初のF1レーサー、ナレイン・カーティケヤン選手が出走して完走。レース後のイベントにはレディー・ガガが出演し華麗なパフォーマンスを見せるなど話題満載となった。
 今回のレースではインドにおける5年間のF1主催権を取得した地場デベロッパーのジェイピー・グループが8億5000万ルピー(約13億6000万円)の収益を上げたほか、携帯電話サービス最大手のバルティ・エアテルが15億ルピー(約24億円)を支払って3年間の公式スポンサーの権利を取得。多目的車大手のマヒンドラ・アンド・マヒンドラもオフィシャル・カー供給などで5年間の契約を締結した。また「アムル」ブランドの乳製品で知られるグジャラート・ミルク販売協同組合もザウバー・チームのスポンサーとなるなど、多くの著名企業がこの歴史的イベントを商機とみて参加した。
 インド商工会議所連合会(ASSOCHAM)はすかさずこのF1グランプリの経済効果に関する試算を発表。今後10年間にわたって毎年インドでF1が開催されれば(主催者のジェイピー・グループはFIAが承認すればF1主催権を5年から10年に延長できる)、計9000億ルピー(約1兆4000億円)の経済効果を生み、技術者などのべ150万人の雇用機会を創出するとしている。走る広告塔としてその効果が実証されているF1だけに、インドのアパレル、宝飾品、自動車といった関連企業も新たな宣伝媒体として注目しているのは間違いないだろう。
 もちろん、批判やネガティブな受け止め方も決して少なくはない。インドGPの入場料は最低2500ルピー(約4000円)から3万5000ルピー(同5万6000円)まで。ラウンジバーでのドリンクがついた3日間通しのパドック券(26万ルピー=約42万円)までがセレブや接待用に用意された。エンジン開発やチーム運営などで年間3億ドルもの活動費が必要と言われるF1だけに、「インドにははたして必要なイベントなのか」との声もあった。
 CWGはインフラ整備と一体化した国家事業だったし、国民的スポーツであるクリケットW杯の開催には誰一人として異議を唱える者などいないが、F1はあくまで純民間のイベント。1周5140メートルのサーキットを建設するのに土地はどうやって買収したのか等々、「社会派」メディアや活動家らにとっては突っ込みどころも満載だ。
 大会前には有名陸上競技選手のP・T・ウシャが「犯罪的なカネの無駄遣い」などとF1を非難したこともあり、こうした世論は少なからず盛り上がった。
 しかし、インドの若者や子供に国や社会の未来像を提示し、希望を与えるという点で、時速300キロ以上で疾走するF1マシンの果たす役割は大きいはずだ。デリーで開催する自動車ショー「オートエキスポ」に殺到し、将来自分にも手が届くかもしれない最新型の乗用車を輝く瞳で見つめる人々の姿は、かつて昭和40年代に初めて自宅にマイカーがやってきたときの興奮と感動に相通じるような気がした。
 ここはひとつ、インド初開催となったF1の成功を素直に喜んであげてもいいのではないか。(山田 剛)
 

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執筆者プロフィール
山田剛 日本経済研究センター主任研究員。1963年生れ。日本経済新聞社入社後、国際部、商品部などを経て、97年にバーレーン支局長兼テヘラン支局長、2004年にニューデリー支局長。08年から現職。中東・イスラム世界やインド・南アジアの経済・政治を専門とする。著書に『知識ゼロからのインド経済入門』(幻冬舎)などがある。
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