行き先のない旅 (89)

公務員に求められる「外交センス」

執筆者:大野ゆり子 2011年11月28日
エリア: ヨーロッパ 北米

 演奏家が外国で演奏するときに苦労するのが、公演のための査証取得である。その中でも特にアーティスト泣かせなのがアメリカだ。
 たとえ2、3日の滞在でも、「科学、芸術、教育、ビジネス、スポーツ、映画やTV製作において卓越した業績を上げた者が、特定のイベントに参加するためのビザ」が必要だが、この準備がなかなか大変である。招聘元が米労働省に申請する労働許可がおりるのに数カ月かかり、その時点ですぐに米国大使館で領事との面接の予約をとるが、申請者が多いと面会日が2、3カ月先になることもある。
 クラシックコンサートでは、演奏者が急病になると、急遽、代役が公演することがある。10年以上前に、オーケストラから「ビザは懇意の上院議員が何とかするから、取り急ぎ米国に入ってくれ」と言われたことがあるが、9.11以降、手続きは厳しくなり、米国外から急遽、公演に「飛び込む」ことは、実質上、不可能になった。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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