オウム事件捜査が手を付けなかった重要問題とインテリジェンス

執筆者:春名幹男 2011年11月23日
エリア: アジア

 一連のオウム真理教事件の裁判が終結した。
大手メディアは「ナゾを残した」「未解明」などと、全容を解明できないまま裁判が終わったことに対するフラストレーションを隠さなかった。
ただ読売新聞が1面トップで、当時東京地検次席検事として捜査を指揮した甲斐中辰夫・元最高裁判事の核心を衝くインタビューを掲載したのが異彩を放った。オウムには70トンものサリンや1000丁の自動小銃を使用する「首都制圧計画」があったというのである。
読売の記事は、同紙が1995年1月1日の1面で「山梨県上九一色村でサリン残留物を検出」としたスクープ記事を掲載したため、「オウム側は慌ててサリン製造を中止した」結果、首都制圧計画が「頓挫した」、と同紙のスクープ報道の意義を強調している。まさに、その通りだった。歴史的にも非常に重要な特ダネであり、同年の新聞協会賞を授与すべきだったが、現実には授与されなかった。
ではなぜ、オウムの国家転覆計画は綿密に暴かれなかったのか。恐らく、当時の検察も警察も立件に必死で、立件の対象になるのかならないのか分からないような問題には手を付けなかったからだと思われる。同様に、ロシア、北朝鮮、オーストラリアなどでのオウムの国際活動についても、極めて重要な問題があったにもかかわらず、解明の努力さえ行なわれなかった。
再発防止および危機管理の面からも、こうした問題を徹底調査すべきであったが、調査する政府機関がないのは大きい問題であることも今、よく見直す必要がある。
米国は、中央情報局(CIA)や連邦捜査局(FBI)の専門家が議会に出向し、政府活動委員会調査小委員会を舞台に調査を行ない、公聴会を開催して、分厚い報告書をまとめた。私は当時ワシントンにいて、日本の国会が調査したという話を聞かなかったのが非常に残念だった。
刑事執行機関は事件の立件が任務だが、インテリジェンス機関には国家安全保障にかかわる重要な任務が負わせられる。貴重な甲斐中氏の問題提起を生かすために、インテリジェンス機関の任務について見直すべきではないか。
 

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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