公務員給与削減 与野党修正協議はなぜ難航するか?

原英史
執筆者:原英史 2011年12月4日
カテゴリ: 政治
エリア: 日本

 

公務員給与削減の法案について、民主・自民・公明が修正協議に入ったものの、報道によれば難航しているらしい。
 
 もともと、この問題について、
・政府(民主)案は、人事院勧告(0.23%カット)を実施せず、復興財源のための特例措置(2年間)として7.8%カットを実施する内容。これは、人事院勧告が特例措置に「内包」されるという説明だ。
・一方の自民・公明両党は、「人事院勧告を実施しないのは憲法違反(内包はありえない)」と主張し、まず人事院勧告(0.23%カット)は実施し、それに上乗せして期間限定の特例措置により当面は7.8%カット、という案を示している。
 
 こうして並べてみれば明らかだが、実際上の差異は、ほとんど無い。
 政府案では、特例措置期間の終了後、「0.23%カット」がうやむやになってしまう可能性があるかもしれないが、とはいっても、所詮「0.23%」の扱いの話。
誤差の範囲内のようなものだ。
 
 なぜそんな実益の乏しい話で、自公がわざわざ対案まで用意し、しかも修正協議が難航してしまうのか?
結局これは、“労働組合vs人事院”の代理戦争のような構図になっているからだと思う。
 
 労働組合は、今回の件で、「人事院勧告を実施しないこと」を強く求めているといわれる。
 これは、おそらく「0.23%カットを逃れたい」という実益にこだわっているわけでなく、今回「人事院勧告を実施しない」こと自体が、労組の永年の目標である「労働基本権拡大」への重要な布石、と位置付けているからだろう。
 前通常国会で政府が給与削減法案を提出した際は、「7.8%カットと労働基本権拡大はセット」、つまり、連合との合意により「労働基本権拡大法案が成立しない限り7.8%カット法案も成立しない」取り決めといわれていた。
 だが、今国会では、これを切り離し、「労働基本権拡大」は次期通常国会に先送り。このため、その代わりに「事実上、人事院抜きで、労使交渉で給与を決める状態を先行して作ってしまう」という意味合いで、「人事院勧告を実施しないこと」は譲れない一線なのだ。
 
 一方で、人事院からすると、労働基本権の扱いがまだ不透明である(次期通常国会で自民・公明が合意するのかも不明)にもかかわらず、先行して「人事院抜き」を認めてしまうことは、組織の存立基盤にかかわる。
 江利川人事院総裁が、衆議院予算委員会で「マラソンがあれば短距離走がなくてもいいなんていう理屈はない」とまでいって、「7.8%が0.23%を内包する」という政府の説明を全面否定したのは、こういうわけだ。
 
 こうした“労働組合vs人事院”の対立が、“政府・民主党vs自民党・公明党”にそのまま投影していると考えれば、実益の乏しさにかかわらず「人事院勧告を実施するか否か」という形式論で折り合いのつかない理由が見えてくる。
 
 本来ならば、公務員給与削減に関しては、
・「7.8%で十分なのか(もともと人件費2割削減を目指していたのでないのか)」、
・「2年間の期間限定措置でよいのか」
といった議論があってしかるべきところだ。
だが、“役人同士の代理戦争”のような協議では、そんな議論にはなりそうにない。
 
(原 英史)
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執筆者プロフィール
原英史
原英史 1966年東京都生れ。東京大学法学部卒、米シカゴ大学院修了。89年通商産業省(現・経済産業省)入省。大臣官房企画官、中小企業庁制度審議室長などを経て、2007年から安倍・福田内閣で行政改革・規制改革担当大臣の補佐官を務める。09年7月退職。株式会社政策工房を設立し、政策コンサルティング業を営む。大阪府・市特別顧問、国家戦略特区ワーキンググループ委員(内閣府)、社会保障審議会年金事業管理部会委員(厚生労働省)を務めるほか、NPO法人万年野党理事、「地方議会を変える国民会議」発起人など。著書に『官僚のレトリック』(2010年、新潮社)、『「規制」を変えれば電気も足りる』(2011年、小学館101新書)、『日本人を縛りつける役人の掟/岩盤規制を打ち破れ』(2014年、小学館)、『国家と官僚』(2015年、祥伝社新書)。
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