経済成長と通貨高

執筆者:平野克己 2012年2月4日
エリア: アフリカ

 世界各国の経済規模を見比べるには共通の尺度がいる。いまわれわれが使っているのは米ドルというモノサシだ。各国通貨で測られたものをドルに換算して、それで大小を判定している。

 だがこれは、固定相場制の時代ならまだしも、値札をつけかえるのとはわけがちがってむずかしい。日本を例にとろう。もともとの国内統計で2000年以降の実質経済成長率を計算すると、名目で年率マイナス0.3%、実質では0.8%である。しかし、ドルに換算された国連統計を使って名目成長率を出すと3.3%になる。一人当たりGDPは名目ドルで測るから、これが国際社会で認知される日本の姿ということになる。
 国連統計にはドル表示の実質GDP値もあるのだが、これはあまり意味のない数字だ。インフレやデフレは各通貨にまつわる各国バラバラの現象であり、ドルで実質化できるのはアメリカだけだからである。国連の実質ドル統計では、日本のGDPのほうが中国のそれより、いまだはるかに大きい。基準年(現在の統計では2005年)のドル値に、各国が出した実質成長率をかけあわせてつくったのが実質ドル統計なのだから、時間がたてばたつほど実態から離れていってしまうのは仕方がない。実質ドル統計というのは、いわば強引につくりだした産物であって、現状を語っているものではないのだ。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
平野克己(ひらのかつみ) 1956年生れ。早稲田大学政治経済学部卒、同大学院経済研究科修了。スーダンで地域研究を開始し、外務省専門調査員(在ジンバブエ大使館)、笹川平和財団プログラムオフィサーを経てアジア経済研究所に入所。在ヨハネスブルク海外調査員(ウィットウォータースランド大学客員研究員)、JETRO(日本貿易振興機構)ヨハネスブルクセンター所長、地域研究センター長などを経て、2015年から理事。『経済大陸アフリカ:資源、食糧問題から開発政策まで』 (中公新書)のほか、『アフリカ問題――開発と援助の世界史』(日本評論社)、『南アフリカの衝撃』(日本経済新聞出版社)など著書多数。2011年、同志社大学より博士号(グローバル社会研究)。
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