国際論壇レビュー
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米新国防戦略がもたらすのは「抑止力」か「卑怯者の戦争」か

会田弘継
執筆者:会田弘継 2012年2月17日
カテゴリ: 国際
エリア: 北米

 アジア太平洋に大きくシフトするアメリカの新国防戦略(1月発表)が、各国を巻き込み活発に動き出した。米軍普天間飛行場移設とパッケージだった沖縄の米海兵隊8000人のグアムなどへの移転を、切り離して進めることに日米が合意したのも、その一環だ。新国防戦略の歴史的意義は、台頭する中国を牽制するアジア・シフトだけではない。第2次大戦以来、アメリカは欧州、アジア、中東のうち2正面で大規模戦争に突入しても、ともに勝利をおさめることが可能なように戦力を維持してきた。だが、莫大な財政赤字を抱え、軍費削減でその「2正面勝利戦略」を、はじめて放棄した。欧州からは2個機甲旅団約1万人が撤退する。冷戦時は最大28万人近かった在欧米陸軍は3万人程度になるというのだから、そこだけ見れば大軍縮だ。 【U.S. Faces New Challenge of Fewer Troops in Europe, The New York Times, Jan.14】

重心は特殊作戦部隊へ

「アメリカのグローバルな指導力を維持する」と題される新国防戦略は、軍備・兵力は縮小しても、「機敏で柔軟性のある」軍があらゆる緊急事態に対応することを目指すと謳っている。【Sustaining U.S. Global Leadership, Department of Defense, January 2012】実際にはどんな用兵になるのか。米紙「ワシントン・ポスト」のベテラン記者ウォルター・ピンカスが要領よく、これからの米軍の姿を描きだしている。
 米軍にはもはや、先の大戦や朝鮮・ベトナム戦争のような大規模陸上戦はない。1991年の湾岸戦争のような短期決戦の大規模侵攻もない。イラクやアフガニスタンのような長期にわたる平定作戦もない。核戦争もありえない。これからは、パキスタンやイエメンでやってきたように偵察衛星を使って無人機で、あるいはビンラディン殺害のように特殊部隊で、敵の中枢を叩く。リビアの場合のように衛星偵察と空軍力で敵の攻撃を阻止する。陸上兵力が必要なら、現地の軍隊や国連部隊を使う。それを米特殊作戦部隊が訓練し、指揮する。
 軍縮が進む中で特殊作戦部隊だけは今後も着実に増強されていく。1990年代には3万5000人規模だったのが、今は6万人が世界100カ国を拠点に動き回っている。2015年には7万人になる。急激に増やせないのは高い技能の訓練のためだ。これらの部隊が、過激集団の武力行使や、内乱などを着実に現地で抑え込む。米軍の作戦の姿は大きく変わっていると、米特殊作戦司令官は言う。【The Pentagon’s new view of warfare, The Washington Post, Feb. 7】

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執筆者プロフィール
会田弘継
会田弘継 青山学院大学地球社会共生学部教授、共同通信客員論説委員。1951年生れ。東京外国語大学英米科卒。共同通信ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。2015年4月より現職。著書に本誌連載をまとめた『追跡・アメリカの思想家たち』(新潮選書)、『戦争を始めるのは誰か』(講談社現代新書)、訳書にフランシス・フクヤマ『アメリカの終わり』(講談社)などがある。
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