原発と司法(上)「もんじゅ」高裁判決の意義と限界

執筆者:塩谷喜雄 2012年3月9日
タグ: 原発 日本
エリア: アジア
高裁では「完全勝訴」となったが(c)時事
高裁では「完全勝訴」となったが(c)時事

 日本の原風景ともいうべき白砂青松の地に、ほとんどの原発は立地している。原発で発生する膨大な熱の大部分は大気と水に放出される。大量の冷却水を供給できて、流量も安定したラインやローヌのような大河は、日本にはない。正確にいうと、いくつかある安定した河川のそばには、人口過密の大都市があり、原発は作れなかった。  必然的に、原発の立地点はみな海辺になり、過疎の海の「津々浦々」に原子炉建屋が並ぶ。内陸部の大河のほとりに原発の冷却塔(クーリングタワー)が立ち並ぶ欧米の原発とは風景が違う。  福井県敦賀市の白木地区。敦賀半島の突端に近く、三方を山に囲まれ、眼前には青く澄んだ日本海が広がる。交通は不便だが、まさに白砂青松、風光明媚な地である。  ここに高速増殖原型炉「もんじゅ」が建っている。資源小国日本のエネルギー自立に向けた国策、核燃料サイクルの拠点施設である。燃やした以上の燃料を生みだすという、まるで魔法みたいな夢の原子炉、有限なウラン資源から生まれたプルトニウムを徹底的に使い回そうという目論見には不可欠のFBR(高速増殖炉)である。  知恵の象徴である文殊菩薩の名を付けられたこの原発は、核分裂反応がつくり出した最も厄介な人工元素、プルトニウムとの危険なお付き合いに、日本社会全部を否応なく巻き込む震源でもある。

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執筆者プロフィール
塩谷喜雄(しおやよしお) 科学ジャーナリスト。1946年生れ。東北大学理学部卒業後、71年日本経済新聞社入社。科学技術部次長などを経て、99年より論説委員。コラム「春秋」「中外時評」などを担当した。2010年9月退社。
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