米情報機関はイラン核兵器開発の「意図」確認できず

執筆者:春名幹男 2012年3月25日
エリア: 北米 中東

 イスラエルはイランの核施設を爆撃するのかどうか――をめぐって議論が沸騰している。しかし、イランが本当に核兵器開発に邁進しているのかどうか、米情報コミュニティはなお確認できていない、という驚くべき状況にあるようだ。
 米国は情報コミュニティの総意をまとめた国家情報評価(NIE)を適宜まとめる。イランの核兵器開発をめぐっては2007年のNIEで、その4年前の2003年に最高指導者ハメネイ師の指示で核兵器開発計画を停止し、2007年中期の時点では再開していないとの判断を示し、米国内でも保守派などから強い批判を浴びた。
 どうやら最近になって、米国家情報会議(NIC)はまた、新たなNIEをまとめつつあるようだが、前回2007年のNIEとほぼ同様の結論になるとみられている、というのだ。ニューヨーク・タイムズ紙の特ダネ記者、ジェームズ・ライゼン氏が報じ、シンクタンク「科学国際安全保障研究所」(ISIS)も先週のレポートで伝えた。
 同紙によると、国家安全保障局(NSC)はイラン政府高官らの電話を盗聴したり、その他の電子監視システムを駆使したりして情報を収集、また国家地理空間情報局(NGA)がイラン核施設の画像分析などを行っている。しかし、イラン当局の真意を分析するのは極めて難しい、というのだ。
 こうした情報について、イスラエル対外情報機関モサドもほぼ同様の見方と伝えられている。
 オバマ米大統領とネタニヤフ・イスラエル首相は先の首脳会談で、後者が求めたイラン爆撃を前者が退けた、などと報道された。しかし、米政府当局者は何よりもまず、イランの核開発の意図が掴めないため四苦八苦しているようだ。
 

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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