「国内へのこだわり」で瀬戸際に追い込まれた日本の電機業界

執筆者:新田賢吾 2012年3月27日
カテゴリ: 経済・ビジネス
(c)時事
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 長らく日本の製造業を自動車産業とともに牽引してきた電機業界。1990年代以降、幾たびか危機に直面してきたが、今、パナソニック、ソニー、シャープの大手3社が巨額赤字に転落、まさに瀬戸際に追い込まれている。サムスン電子、LGエレクトロニクスの韓国2社と鴻海精密工業(ホンハイ)、友達光電(AUO)など台湾勢、さらに最近はTCLなど中国メーカーの攻勢に押され、主力商品の薄型テレビや携帯電話端末、デバイスなどでグローバル市場でのシェアを落としている。理由は明確だ。コスト競争力はもちろん、商品企画、ブランドなどのマーケティング力、市場の変化への対応力で優位性を失っているからだ。

海外に生産拠点を移していれば

 コスト競争力の低下には、円高、高い法人税や電気料金など外部要因が大きいが、生産拠点の海外へのシフトなど打つべき手はあった。だが、パナソニックは尼崎にプラズマパネルの巨大生産拠点を第1工場から第3工場まで建設し、さらに液晶パネルの過剰生産がすでに歴然となっていたなかで、日立製作所から買収した液晶パネル会社の新拠点建設を強行、2010年1月に操業を開始した。
 シャープは同社の液晶テレビのブランドにもなった三重県亀山の液晶パネルの2工場に加え、2009年に堺に3800億円を投じた世界初の第10世代の液晶パネル工場を完成させた。両社とも高コストを納得したうえで、日本国内に薄型テレビ用のパネル工場を建設する経営判断を下しており、日本のコスト高を言い訳にすることはできない。
 パナソニック、シャープともに海外に工場を置けば、虎の子の生産技術が流出すると懸念し、それを理由に国内に拠点を建設したはずだった。だが、シャープは亀山第1工場の液晶パネル生産ラインを中国の熊猫電子に売却、南京に移設した生産ラインはシャープの技術指導のもとで昨年3月に生産を開始している。シャープ自らが外国企業に技術を売り渡しているのだ。それならば中国、台湾、タイどこでも海外に液晶パネル工場を建設していればよかったはずだ。国外で2000億-3000億円といった投資をするリスクを恐れ、海外拠点での品質維持など操業に不安を感じていただけだろう。
 リスクをとれない体質が国内生産拠点へのこだわりを招き、投資の道を誤った。もしパナソニックが液晶パネル、プラズマパネルの工場のひとつでもアジアのどこかに建設し、シャープも堺工場の代わりに米欧、アジアのどこかに2、3カ所の液晶パネル工場を持っていれば、今日のような“薄型テレビ危機”には陥らなかっただろう。なぜならライバルであるサムスンもLGも、国外にはまだパネル工場を展開していないからだ。
 韓国勢がウォン安と政府の優遇策という追い風を受けていたとしても、日本メーカーが大消費地での現地生産に踏み切っていれば、輸送コストなどの面で対抗できなかっただろう。パナソニックやシャープの経営陣にリスクを取る大胆さがあれば、今、韓国勢と立場が逆だった可能性も小さくない。

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