アフリカ投資をどうやって促進するか

平野克己
執筆者:平野克己 2012年4月2日
カテゴリ: 経済・ビジネス 国際
エリア: アフリカ

 来年6月、横浜でアフリカ開発会議(TICAD V)が開催される。2008年にやはり横浜で開かれたTICAD IVでは官民連携を通じた開発協力が謳われ、次回のTICADまでに日本の対アフリカ投資を倍増するという目標が設定された。  ではいったいどうやって民間投資を促進すればいいのか。私たちの研究所は投資促進の方針をうけて、2009年から「対アフリカ投資誘致型実証事業」と名付けた3本のプロジェクトを進めてきた。実際にアフリカで事業を行っている日本企業と組み、各社が直面しているアフリカ特有の問題にどう対処すればよいかを、企業と共同で探索するプロジェクトだ。選んだテーマはエイズ、マラリア、雇用創出の3つであった。  これはアジア経済研究所が政策実施にかかわった初めての事業で、研究費は破格に大きかったが苦労も多かった。先般ようやく各社への報告を終え、すべての報告書を当所のホームページで公開した。アドレスは http://www.ide.go.jp/Japanese/Research/Project/2011/505.html である。ご関心ある向きはどうぞご覧ください。  アフリカ投資、アフリカビジネスにはアジアにはないリスクやコストが伴う。エイズやマラリアといった感染症問題はその典型だろう。アフリカに進出している日本企業は南アフリカに集積しているが、南アフリカは560万人という世界一のHIV感染人口をもち、毎年30万人以上がエイズを発病して死亡している。成人感染率は17%だ。これだけ感染率が高いと従業員のなかにもHIV感染者がいると考えておかなくてはならない。つまり、南アフリカ工場への赴任辞令をもらって労務担当を命ぜられたら、着任早々エイズ問題に取り組まなくてはならないのである。いかな労務のプロでも、エイズ問題に知見のある人はそうはいない。  私が南アフリカで勤務していた当時、日本企業は各社別個になんとか対策を講じようとしていたが、本社にもなかなか相談できず、日本商工会のなかでの情報交換もなく、日本政府の支援もなかった。まだ官民連携が始まっていなかったので、JICAのエイズ対策支援は日本企業とは別のところで動いていた。日本人が経験したことのないこのような問題に対しては、官民が一丸となって対応策マニュアルを作る努力が必要だと痛感した。  対アフリカ投資誘致型実証事業におけるエイズのプロジェクトは、南アフリカのトヨタ現地法人と共同でHIVの社内検査率をいかにして引き上げるかを探索するものだった。トヨタは、日本企業のなかで、アフリカにおいて最大の雇用を抱えている会社だ。トヨタが苦しんでいたのは、社内のクリニックでいつでも無償で検査しているのにもかかわらず、検査率がいっこうにあがらないという問題だった。HIV感染の実態が分からないと対策の立てようがない。私たちは幾つかの方法を提示して、そのなかからトヨタ側に対策案を選択してもらい、その案をトヨタの全従業員を対象に実験した。その結果、検査率を80%まで引き上げることに成功した。トヨタがやっていたやり方には欠陥があったのである。  日本政府はTICAD IV以後、官民連携のスキームをいろいろ用意し、アフリカ向けの貿易保険を拡張し、アフリカ諸国の政府とも積極的に交渉して、投資促進を図ってきた。こういった努力と並行して、私は、いま各社が直面している具体的な問題に対処する方策を見つけ出すことが大事だと考えている。アフリカ各国でさまざまな問題を抱え、孤独に悩んでいる日本人駐在員はたくさんいるのである。 (平野克己)

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執筆者プロフィール
平野克己
平野克己 1956年生れ。早稲田大学政治経済学部卒、同大学院経済研究科修了。スーダンで地域研究を開始し、外務省専門調査員(在ジンバブエ大使館)、笹川平和財団プログラムオフィサーを経てアジア経済研究所に入所。在ヨハネスブルク海外調査員(ウィットウォータースランド大学客員研究員)、JETRO(日本貿易振興機構)ヨハネスブルクセンター所長、地域研究センター長などを経て、2015年から理事。『経済大陸アフリカ:資源、食糧問題から開発政策まで』 (中公新書)のほか、『アフリカ問題――開発と援助の世界史』(日本評論社)、『南アフリカの衝撃』(日本経済新聞出版社)など著書多数。2011年、同志社大学より博士号(グローバル社会研究)。
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