北朝鮮の米本土攻撃「能力」を注視する情報機関

春名幹男
執筆者:春名幹男 2012年4月9日
カテゴリ: 外交・安全保障
エリア: 朝鮮半島

  12~16日に予定される「人工衛星打ち上げ」を口実とした北朝鮮のミサイル発射実験。日米韓の情報当局にとっては、北朝鮮がこれまで達成したミサイル技術習得の現状を把握する絶好のチャンスとなる。問題は北朝鮮の米本土直接攻撃能力が証明されるかどうか、だ。
表舞台では、防衛省がミサイルの飛翔経路に沿った沖縄、石垣島、宮古島だけでなく、首都東京周辺にも地対空誘導弾PAC3の配備を急ぎ、緊張感を高めているが、裏の情報戦はひそかに展開される。米軍は、全地球ミサイル防衛システムの稼働により、宇宙、海洋、地上配備のレーダーおよびセンサーで追尾し、アラスカ、カリフォルニア両州配備のミサイル迎撃装置が機能する。
これまで、北朝鮮の長距離ミサイル発射は①1998年8月31日のテポドン1、②2006年7月4日のテポドン2、③2009年4月5日のテポドン2改良型――の3回あった。
①は、1段目が舞水端里(ムスダンリ)の発射施設から東300キロの海上に落下、2段目は日本列島を越え、八戸の東330キロ海上に落下、計1464キロ飛んだ。その後人工衛星を搭載したとみられる3段目の残骸が計4000キロ程度の海上に落下したと判明。
②は、発射から装置の故障で、約40秒後に日本海に落下した。
③は、1段目が①とほぼ同様に秋田沖280キロの日本海上に落下、2段目は日本の東方1270キロの海上に落下、約3200キロ飛翔したとみられる。第1段ロケット発射・飛行には成功し、第2段への移行・ロケット制御もできた。しかし「第2段または第3段ロケットから搭載物を分離できなかった」(オベリング米国防総省ミサイル防衛局長)、その上長距離多段式ミサイルの開発にも失敗したと米国は評価した。
①~③と失敗が続いたことから、一時的に米政府内では北朝鮮長距離ミサイルの脅威に対する楽観論が広がっていた。
しかし昨年1月、訪中した当時のゲーツ米国防長官が「北朝鮮は米国の直接の脅威になりつつある。・・・核兵器と大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発の組み合わせによって5年以内に脅威になる」と警告、一気に警戒論が高まった。そして、昨年3月の議会証言で、バージェス米国防情報局(DIA)局長は「米本土に到達する能力を持つICBM開発」のため北朝鮮がテポドン2発射実験を行う可能性に言及した。
昨年11月には、米下院軍事委員会戦略戦力小委員会の5人の共和党議員がパネッタ現国防長官に対して、外国(北朝鮮)による「米国への直接攻撃可能な長距離弾道ミサイル」の開発に注意を喚起する書簡を送った。書簡はゲーツ前長官が昨年6月に米週刊誌ニューズウィークで語った「北朝鮮は今や米国にとって直接的脅威だ。北朝鮮は道路移動式のICBMを開発している。移動式ミサイルの探知は非常に難しい」とのインタビュー記事を添付していた。北朝鮮が射程4000キロ・搭載可能重量500キロの新型中距離弾道ミサイル(IRBM)「ムスダン」を開発したとのインテリジェンス情報も届けられていた。さらに、首都平壌の北約22キロのサヌムドン・ミサイル工場で半移動式の射程6700キロのテポドン2Bが完成したとの情報も寄せられたという。
今度の「地球環境衛星」打ち上げと称するミサイル発射は相当の準備を重ねたものと想定される。今回初めて使用される東倉里の発射施設は、北朝鮮が過去の発射で使った日本海側の舞水端里の施設に比べて大規模。韓国メディアによると、東倉里の施設は舞水端里の3倍の規模で、発射台の高さは1・5倍の約50メートル。地下燃料貯蔵施設を備え、燃料注入などが自動化されているため短時間での発射が可能とみられている。
さらに、金正恩氏が先月、朝鮮人民軍の戦略ロケット司令部を視察したことが伝えられた。戦略ロケット司令部の存在が明らかになったのは初めて。核ミサイルの運用を担当す
る可能性がある。
オバマ政権が2月の米朝高官協議で「長距離ミサイル発射の一時停止」合意を急いだ背景にはこうした北朝鮮側の動きがあったとみてよい。
米議会調査局によると、テポドン2は搭載可能重量700~1000キロで射程6700キロの能力があるとも言われる。北朝鮮が今度、米西海岸に到達する8000キロ以上の射程を達成した場合、米国への直接的脅威が大問題化し、北朝鮮に裏をかかれた外交的失敗と野党から攻撃される恐れがある。その場合、大統領再選にかけるオバマ氏は厳しい立場に置かれる。(春名幹男)

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執筆者プロフィール
春名幹男
春名幹男 1946年京都市生れ。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒業。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授を経て、現在、早稲田大学客員教授。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『スパイはなんでも知っている』(新潮社)などがある。
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